ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は米国、英国、日本にグローバル機能を持っており、日本法人で働く外国籍の社員も増えてきています。自国とは言葉も文化も異なる日本を拠点にSIEで働く社員は日々何を感じているのでしょうか?本記事ではコロンビア出身で、PlayStation Studiosの一員として「アストロ」シリーズの開発を担うTeam ASOBIのニコラス・グアリンに、これまでのキャリアや日本人と共に働く中で感じたことをインタビューしました。

――来日するまでのキャリアなどについて教えてください。
私は大学で映画やテレビ制作について学んだ後、コロンビアのテレビ局に就職しました。テレビ局ではADからスタートし、脚本を書いたり短い番組の監督などを担当しました。その後、コロンビアにあるソニーピクチャーズエンタテインメント(SPE)の支社に転職しました。

ゲームは小さい頃からとても好きでしたが、コロンビアではそもそもゲームが産業として確立していないため、自分がゲーム業界で働くことは想像できませんでした。日本に留学した時に初めて「日本でならゲーム関係の仕事ができるのでは」と思い、胸が高鳴ったことを憶えています。

ニコラス・グアリン

――コロンビアにいるときからソニーグループと繋がりがあったのですね。どのような経緯で日本に留学されたのでしょうか?
これはコロンビア独特の文化かもしれませんが、仕事をしながら大学院で学びキャリアアップを目指す例は多く、私もそういった先輩たちの姿を見ていました。このような周囲からの影響もあり、私も大学院で勉強したい、せっかく勉強するなら海外の大学院で、と考えていました。その後、留学先を探している時に友人から「日本で勉強できる奨学金制度がある(注:文部科学省の国費外国人留学生制度のこと)」と教えてもらい、小さい頃から憧れていた日本で勉強したいと思い、応募しました。来日して最初の一年は京都で日本語を学びました。その後、修士課程で2年学び、博士課程に進みました。

――大学院を修了後、日本で働こうと思ったのはなぜですか?
じつは最初はコロンビアに戻ろうと考えていましたが、プライベートでの変化もあり、日本で働こうと思うようになりました。博士課程を終える頃に就職活動を始めました。じつは大学院で勉強している間、日本のSPEでインターンをしたこともありましたが、就職するのであれば子どもの頃から憧れていたゲーム業界で働きたいと思い、会社説明会はゲーム会社のものに絞って参加しました。

――いくつかのゲーム会社の会社説明会に参加されたと思うのですが、SIEで働きたいと思ったきっかけはありますか?
もともとプレイステーションが好きだったこともありますし、また、会社説明会での雰囲気も良かったのでSIEを希望しました。また、会社説明会の会場の廊下でSIE人事の方が自動販売機で飲み物を買っている姿をたまたま見かけたのですが、とても自由な雰囲気で、こういう方がいる職場で働きたいと思いSIEに決めました。

――学生として日本で勉強していた時と実際に働き出してからを比べると、違いを感じましたか?

実際に働き出して感じたのは、技術の高さです。プログラマーであったりアーティストであったり、皆さんの技術レベルがとても高いです。日本人は完璧主義な所があると思いますので、高い技術と完璧主義が組み合わさって素晴らしいものを作ることができるのだなと考えています。また、日本で働いているからこそ自分の技術レベルもブラッシュアップできていると思います。もうひとつは、学生の立場からは見えなかったものが見えるようになりました。日本の人は留学生にも優しいですし、私は海外の友達にぜひ観光においでとお薦めしています。しかし、実際に日本で働いてみると大変なことはありますし、もし大学院を卒業してコロンビアに帰っていれば、日本のイメージは今と違っていただろうなと思います。ただ、学生の頃とは違った視点を持てたことは、私が日本社会にある程度参加できている証拠かなと思っています。

――SIEで働いて良かったと思う点・困った点を教えてください。
一番良かったと思っているのは、コロンビアでは想像することも難しかったようなプロジェクトに参加できる点です。コロンビアのテレビ局で働いている時は、南米向けのテレビ番組を作ることはありましたが、SIEは世界中の人に向けてゲームを提供しています。世界中の人に愛される製品・サービスに携わることができるのは、とてもすごいことだと思います。

困った点というより不思議に感じるのは、これはSIEというよりもむしろ日本全体の傾向かなと思うのですが、大学院で研究していたことやこれまでのキャリアが新卒で入社する時にはリセットされて、学部生と同じスタートラインに立っているように思える点です。

――同僚とのコミュニケーションで文化の違いを感じることはありますか?
日本人にとって「発言する=コミットする」なのかなと、会議の場などでは感じることがあります。思い付いたことを口にするのは避けて、コミットできないことは発言しないように気を付けているのかなと思うことがありますし、だからこそ発言には重みがあるとも感じます。コロンビアでは自分のプレゼンスをアピールするためにも会議では積極的に発言しますし、出来るだけ自分が中心になる努力をする傾向があります。しかし、コロンビアのやり方を日本でやると、うまく行かないことも多いと思います。

私は日本の大学院で学んでいた頃、発表の際などに周りからのコメントがないとすごく悔しい気持ちでした。発表会が終わって打ち上げの席でお酒が入って、やっと感想を聞かせてもらえるということが何回もありました。だからかもしれませんが、率直に意見を言ってくれるととても嬉しいです。私も出来るだけ空気を読む努力をしていますが(笑)、どうしても分からない時がありますので、そんな時にハッキリと意見を言ってくれる人がいると本当に助かります。

――SIEで勤務する中で、外国籍であることを感じる時はありますか?
特にないと思います。感じることがあっても翻訳をお願いされる時ぐらいで、むしろ国籍の違いを感じることなく普通に働くことができているのを嬉しいと思っています。

――日本人がグローバルな環境でコミュニケーションを取ることにあたって、アドバイスがあれば教えてください。
先ほどのコロンビアの例がグローバルに通用するのかは分かりませんが、自分の意見を伝えることは大事だと思います。ストレートな表現を好む・好まないといった文化の違いはあると思いますが、意見は言わないと伝わらないですし、自分の考えを口にすることは失礼には当たらないと思います。

――これから日本でやりたいことを教えてください。
仕事の面では、Team ASOBIが他のPlayStation Studiosに負けないような高いレベルのゲームを提供できる強いスタジオになるよう、自分なりの貢献をしたいと思っています。

――ありがとうございました。