2019年、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、世界中のファンに愛されるPlayStationのIP(自社制作タイトル)を映画・テレビ番組化することを目的とした制作スタジオ、PlayStation Productionsの設立を発表しました。設立以来、PlayStation Productionsは、全世界で4億ドルを超える興行収入を記録した映画『アンチャーテッド』や、最初の6話で平均視聴者数3,040万人を獲得し、ヨーロッパおよびラテンアメリカでHBO Max史上最も視聴された番組となったTVシリーズ『The Last of Us』などの製作で重要な役割を担ってきました。

この新しい組織はどのように生まれ、今後どのような取り組みを予定しているのか、PlayStation Productions統括責任者であるアサド・キジルバッシュに聞きました。


−−− PlayStation Productionsはどのような経緯で生まれたのでしょうか?初期段階ではどのような構想があったのでしょうか?

PlayStation Productionsの設立は複数の要素がきっかけでした。まず、PlayStationタイトルのオーディエンスをさらに拡大したい、という考えがあったこと。次に、マーベル・スタジオがディズニー傘下でコミックの実写映画化に成功していたことです。さらには、ソニーのグループ会社間でより多くのシナジーを生み出し、今まで以上にコラボレーションを推進していくことが、吉田 憲一郎さんからグループ各社に課されたチャレンジのひとつでした。

これらの要素が、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)と共同でゲームタイトルを映画・テレビ番組化する組織をSIE内に設立する、というアイデアの誕生に繋がったのです。


−−− PlayStation Productionsの設立と、特定のIPを映画・テレビ番組化したいという考え、どちらが先行したのでしょうか?

PlayStation Productionsの設立がはじまりでした。「GOD OF WAR」や「Horizon」「The Last of Us」をはじめとした、あらゆるタイトルを世界的なエンタテインメント作品シリーズへ育みたいという思いは最初からありました。そして、PlayStation Productionsを設立し、SPEとパートナーシップを結んだことではじめて、これらの夢が現実のものとなったのです。

PlayStation Studiosでは、現在も展開しているタイトルとそうでないものを合わせると100以上の作品が存在します。そんな中、私たちはまず「アンチャーテッド」と「The Last of Us」に着目しました。この2つを成功させることができれば、ソニー全体が私たちの取り組みに期待し、盛り上がってくれると考えたのです。

−−− ゲームのようなインタラクティブな作品は、どのようにテレビ番組や映画のシナリオに落とし込むのでしょうか?大小様々な課題があったのではないでしょうか?

ゲームタイトルをテレビ番組または映画化するにあたり、すべての作品に適用できる万能な手法はありません。例えば、『The Last of Us』と『グランツーリスモ』はまったく正反対な作品です。根幹となる物語や世界観、キャラクターがすでに存在している『The Last of Us』に比べ、『グランツーリスモ』はそれらが確立されていません。そのため、それぞれ異なる方法でアプローチする必要があります。

『The Last of Us』をドラマ化する際、原作であるゲームから何を省くか、逆にどのような新しい要素を加えられるか、それらのバランスを考慮する必要がありました。例えば、ゲームでは深く掘り下げられなかったキャラクターに焦点を当てるなど、原作を必ず守らなければいけないルールだと捉えるのではなく、あくまでインスピレーションとして活用することが重要なのです。そのため、ゲームを愛し、尊重してくれるクリエイターを見つけることは非常に大切で、クレイグ・メイジン氏はまさにぴったりの人選でした。

もう一方の例は、『グランツーリスモ』です。「グランツーリスモ」シリーズには、確立されたストーリーはありません。そのため、本作の脚本を担当している『アメリカン・スナイパー』のジェイソン・ホール氏と『ドリームプラン』のザック・ベイリン氏は、「グランツーリスモ」をプレイしてプロレーシングドライバーになったヤン・マーデンボロー選手の実話を基に新たなストーリーを製作しました。

課題という点では、私たちはまだこれらの方面では比較的経験が浅いので、ストーリーの最適な伝え方について試行錯誤しているところです。今後すべてが成功するとは限りませんが、予想を超えていくエキサイティングな作品を届けることができると確信しています。

−−− ゲームタイトルをテレビ番組、映画化するにあたって、まさに今がベストなタイミングだと思います。その理由のひとつが、テクノロジーです。技術の進歩のおかげで、これらの物語をより忠実に実写映像化することができたと感じますか?

はい、ふたつの意味でそうだと感じます。ひとつは、進歩したテクノロジーの力によって、ゲームのストーリー性や感情表現が非常に豊かになったという点です。これはゲームに登場するキャラクターたちの演技や、壮大なシチュエーションや場面にとてもよく表れていると思います。魅力的な原作のおかげで、実写映像化しやすくなったのは間違いありません。

さらには、ソニーの新しいデジタルシネマカメラ「VENICE 2」など、使用する機材の進化も大きく貢献しています。特に『グランツーリスモ』の 映画製作においては非常に重要な役割を担っています。カメラのサイズと機動力、性能により、狭い車内のあらゆる場所にカメラを設置できるので、CGかと見紛うような信じられないレースシーンを捉えることができるんです。これらの技術によって撮影できる様々なアングルは驚異的です。

−−− ゲームやテレビ番組、映画製作における手法やテクニックは、今後どれほど融合していくと思われますか?

それぞれの芸術的表現や製作手法は、今後さらに融合していくと思います。例えば、映画『グランツーリスモ』では、実際に「グランツーリスモ」のゲームエンジンを使ってコースや環境、スタントのプリビズ(シーンの検討のために簡単なシミュレーションを作成すること)用の車体などを制作しました。これは私たちがすでに実践しているテクニックのひとつですが、あらゆる可能性のごく一部です。

これからの映像製作は、この方向に向かっていくでしょう。現在では非常に高精細なゲームコンテンツが数多く製作されています。将来、ゲームエンジンやアセットが映画やテレビ番組の制作に使用されることは間違いないでしょうし、PlayStation Productionsが注力していることのひとつです。

−−− 特定のデジタルアセットがゲームと映画の両方で使用されることはありますか?(例えば、『グランツーリスモ7』の車のモデルが映画『グランツーリスモ』で使われているなど)今後、ゲームからアセットを引用して映画に取り入れたり、またその逆のパターンが実現する可能性はあるのでしょうか?

「グランツーリスモ」においては、映画『グランツーリスモ』に登場するいくつかの車体やシーンをゲームに実装する予定です。また、シナジーの観点から言うと、ソニーをはじめとするエンタテインメント企業は、ゲームと映画・テレビ番組の距離をさらに近づけ、それぞれのファンが一緒にコンテンツを共有し、楽しむことができるような、あらゆる方法を探っています。

−−− ここ数年を振り返って、今のような技術がなければうまく実現できなかったと思われるシーンなどはありますか?

『グランツーリスモ 』はまさにそうです。本作に登場するレースシーンの多くは、以前であればCGで作成するか、多額の費用を投じなければ再現できなかったと思います。デジタルシネマカメラ「VENICE 2」を車体のあらゆる位置に設置することで、これまでは不可能だった迫力の映像が撮影できるようになりました。

『グランツーリスモ 』の夜のシーンも、ソニーのカメラ技術によって、非常に高精細で鮮明な素晴らしい映像に仕上がっています。

−−−ソニーは世界を感動で満たすことを目指しています。PlayStation Productionsのプロジェクトに取り組むとき、「エモーション(感情、感動)」はどれほど重要だとお考えですか?

PlayStation Productionsの取り組みは、ゲーム開発と同じ理念を継承しています。PlayStation Studiosのタイトルは常に、ストーリー、キャラクター、エモーションを起点としています。これらのゲームと同様に、PlayStation Productionsでは、意味があり、エキサイティングで、見る人の予想を超えていくような作品づくりを目指しています。

SIEには、様々な感情を呼び起こすことができる、多彩なゲームタイトルが揃っています。「アンチャーテッド」「The Last of Us」「Twisted Metal」「グランツーリスモ」「GOD OF WAR」「Horizon」など、それぞれのタイトルは実に多様で印象的なストーリーやキャラクター、そしてエモーションが描かれています。

私たちの取り組みと作品は感動で満ちているのです。

さらに私たちは、クリエイターの行き着く先でありたいと思っています。世界最高峰のクリエイターたちが、PlayStationのタイトルをプレイして育ち、ゲームに情熱を注いでくれる、本当に素晴らしい時代です。世界トップクラスのクリエイターたちはPlayStation Productionsを通じて、ゲームと映画製作に対する情熱を掛け合わせた作品づくりができるのです。