開発者インタビュー 半導体が生み出すゲームのワクワク
30年以上にわたりPlayStationの体験を支えてきたテクノロジーの舞台裏


プロフィール
大塚活志さん / ソニー・インタラクティブエンタテインメント LSI開発部門 LSIシステム・アーキテクト
周囲に広がるのは360度つながったきれいな映像。耳からはリアルなサウンドが、コントローラーからは持ち物の感触が伝わってきます。そんなゲームの世界を作り出しているのが、ゲーム機の半導体。それがどんなふうに進化してきたか、開発者の大塚活志さんに教えてもらいました。
昔のゲームは、2D(二次元)の平面的な世界。画像表現やシナリオは限られ、プレーヤーの選択肢は少なくなりがちでした。そんな遊び方を決定的に変えたのが、1994年に発売された家庭用ゲーム機「プレイステーション」です。プレーヤーのコントローラー操作と同時に動く立体的な画像や豪華な音に、子どもも大人も大熱狂。その後もプレイステーションは進化を続け、それとともにゲーム機の心臓部にあたる半導体もぐんぐんレベルアップしてきたのです。
ゲーム機の心臓部はLSI
トランジスタやコンデンサー、抵抗などの素子を1000個以上集積した(集めて作った)半導体回路を「LSI(大規模集積回路)」といいます。LSIは、機械の脳や心臓ともいえる重要な部分です。
プレイステーションには、計算や画像処理をするLSI、プログラムやデータ保存用メモリーを管理するLSI、電源や無線通信を制御するLSIといったロジック半導体(カスタムICやASIC)などが搭載されています。大塚さんは新機種の発売に向けて、プレステならではの機能がぎゅっとつまったオリジナルのLSIを開発しています。
LSIはICのうち大規模なもの。以前はICと区別されていましたが、今はほぼ同じ意味です。そのなかでも、複数の機能やCPU/GPUを含めたものを「システムLSI」や「SoC(System on Chip)」と呼びます。
プレイステーションと半導体の30年
1994年 プレイステーション(PS)

3Dの世界がリアルタイムで動いた!
PSは立体的な三次元の絵(3DCG)をプレーヤーの操作に合わせて動かすことに成功しました。3DCGは“奥行き”があることで立体的に見えます。この奥行きを計算するために、専用の半導体「GTE(Geometry Transformation Engine)」が開発されました。
また、3DCGは2Dに比べてデータ量が格段に多く、それをコントローラーの指示に合わせて動かすには、膨大な計算を高速で行う必要があります。そこでPSでは、超高速で計算できる「R3000」というCPU(ロジック半導体の一種)とGTEを一つのLSIチップに入れて連携させています。

PSは途中経過をセーブする「メモリーカード」を採用。メモリーカードは新しい半導体メモリーの一種であるフラッシュメモリーを内蔵していました。

PSに搭載された半導体。その頃普及し始めたばかりのパソコンや他のゲーム機に比べても、相当高速な計算ができた。
2000年 プレイステーション 2(PS2)

画像処理用にオリジナルの半導体を開発
PSを引き継いで、PS2の画像はさらにきれいに、リアルになりました。また、よりスケールの大きいゲームが登場し、オンラインで大勢がつながって遊ぶ「マルチプレー」ができるようになって、ゲームの画面にはより複雑な映像が求められるようになりました。
それを実現したのが、「Emotion Engine(EE)」と「Graphics Synthesizer(GS)」という二つの半導体です。EEは、リアルな画像を描くための計算を超高速で行うCPU。GSは、EEが作り出した物体に色や質感などを加えて仕上げる役割を果たします。最近話題のNVIDIAの「GPU」(AIの学習に使われる半導体)は、もともと画像処理用の半導体として開発されました。それと同じような仕事をするのがGSです。GSはNVIDIAのGPUよりも早い時期に、PS2のために独自に開発された半導体なのです。

PS2に搭載された半導体。真ん中がEEで、その右がGS。GSは一つのロジック半導体チップにメモリー(DRAM)も埋め込んだことが特徴です。
2006年 プレイステーション 3(PS3)

コンピューターとしての性能が大幅アップ
今のスマートフォンのように、インターネットを使ったデジタルサービスやオンラインゲームの仕組みをいち早く取り入れたのがPS3です。それを実現したのが「Cell Broadband Engine(CELL/BE)」。CELL/BEには異なる特性をもつCPUがいくつも内蔵されていて、それぞれが得意なタイプの計算を同時に行うことができます。そのためPS3は、PS2に比べて計算能力が爆発的にアップしたのです。
画像処理用の半導体「RSX」はNVIDIAと共同開発したもの。RSXのおかげで、まるで実写のような風景から、アニメらしいふんわりした人物まで、さまざまな画像をきれいに描けるようになりました。映像の動きもなめらかになって、例えばレーシングゲームでは、カーブを曲がる動きや急ブレーキをかけた瞬間が、よりリアルに、自由に表現できるようになりました。


RSX(左)にはロジック半導体チップ一つと複数のメモリーチップが入り、CELL/BE(右)には異なるタイプのCPU合計9個が一つのチップにまとめられました。
2013年 プレイステーション 4(PS4)

心臓部である半導体チップが一つに
これまで二つの半導体チップで構成されていたPSシリーズの心臓部が、PS4からは一つのチップ(SoC)で作られるようになりました。このSoCはAMDとの共同開発によるものです。
1チップにした理由は、半導体の技術が進歩して一つのチップに多くの電子回路を作れるようになったから。また、1チップにするとプログラミングが効率よくできるためです。これによって、ゲーム制作者の負担が軽くなり、PSシリーズにいろいろなタイプのゲームが登場するようになりました。
PS4が発売された2013年はスマホが普及し、みんながSNSを使い始めた時期。それに合わせてPS4もソーシャル機能が充実。プレーの様子をオンラインで配信するゲーム実況や、インターネット上で他のプレーヤーにコントローラーの操作を任せることができる「シェアプレイ」にも対応しました。

計算や制御をするCPUと画像処理や計算をするGPUを1チップに。メモリーもまとめてプログラマーが管理しやすくした。
2020年 PS5/2024年 PS5 Pro


現実からゲームの世界へ一気に飛び込める
PS5のテーマは「没入感」。つまり、現実とゲーム世界の境目がなくなるような、ゲームに夢中になって現実を忘れてしまうような感覚です。そんな感覚を生み出すためにPS5では半導体を進化させ、画像や音響などにさらに磨きをかけました。
2024年発売のPS5 ProではAIを本格的に導入しました。PS5 Pro独自のAI半導体はAMDと共同開発したものです。AIによって大きく変わったのは画像の作り方。これまではどんなに精密な画像もすべてGPUが計算して描いてきました。しかしAIを導入すると、計算の回数を大幅に減らし、足りないところをAIが自動的に補正。その結果、計算して作ったものより高画質でなめらかな画像となりました。そうした処理をするため、PS5 ProのAI半導体は1秒間に300兆回の計算ができます。

PS5の半導体も1チップ。PS5 Proの半導体はPS5の半導体をバージョンアップし、AI関連の電子回路を追加しています。
PS(1994年)のCPU → PS5Pro(2024年)のSoCまでの進化
- 計算能力 約450万倍
- トランジスタ集積度 約2万倍
- メモリー容量 約6000倍(メイン+ビデオ用DRAM)
PS5 4つの「すごい!」
画像がきれい
まるで実写のようにリアル。手前の木々ははっきり、遠くの景色はぼんやりかすんでいます。風が吹けば花がゆれ、人の動きに合わせて影が移動します。しかも天候や時間帯に合わせて、光の差し方や明るさが変化。こうした描写を実現するために、半導体はものすごい回数の計算をしています。
ゲーム開始が爆速
スイッチを入れてスタートを待っている間に「遊びたい!」という気持ちがさめてしまうこと、ありませんか? その待ち時間を短くするために、PS5は半導体メモリーの一種「SSD」に一工夫。データを圧縮したり、読み出しのステップを減らしたりすることで、ゲームの世界を爆速で立ち上げます。
臨場感あるサウンド
例えばホラーゲームでは、後ろからヒタヒタと近づいてくる足音が。ヘッドホンをすると音は360度、どの方向からも聞こえるので、音によって自分の居場所や周りのものとの距離感がわかり、「ゲームの世界にいる」感覚が味わえます。こうした立体音響も、半導体のものすごい回数の計算によって実現しています。
アクションを体感
コントローラーには、計算によって触覚を作り出すLSIや、動きを検出するセンサー、センサーから得た情報をデジタル信号に変換する「A-Dコンバーター」などの半導体が入っています。それらの働きが、猛スピードで走る車に乗っていたり、弓を引いたりする感覚を伝えます。ツルツルやシュワシュワといった感触も感じられます。
大塚さんへの3つの質問
PS3からPS5 ProまでのLSI開発に携わった大塚活志さん。ゲーム機用の半導体を開発するには「半導体に加えて、コンピューターの知識もあるといい」といいます。
Q1 大塚さんはどうやってゲーム開発のお仕事に?
子どもの頃からコンピューターに興味があり、「科学万博つくば’85」にも行きました。ゲームも当時から好きでしたよ。大学と大学院では電子工学や計算機理論を学び、半導体開発の会社に就職。その後、PSからPS3を開発した久夛良木健さんの講演を聞いて感動し、今の会社に転職して、プレステ用のLSIの開発をしています。
「次のプレステはどんなゲーム機にするか」を議論し、それを実現するための半導体の構造や製造計画を考える仕事です。
Q2 ゲーム機用の半導体開発をするためにはどんな勉強が必要ですか?
ゲーム機は半導体とコンピューター技術の組み合わせで成り立っています。半導体の勉強とともに、情報科学やソフトウェアを含めたコンピューターサイエンスを学ぶとよいと思います。
みなさんが学生時代に学んだ技術や理論は、開発の現場で必ず役に立ちます。私たちは最先端を目指して開発していますが、最初に「基本」に立ち返ることがとても多いからです。学生さんには今の「基本」の学習を大切にして、社会に出てからも学び続けてほしいです。
Q3 新しいゲーム機を開発するときに心がけていることは?
プレイステーションの父と呼ばれる久夛良木さんは「すぐに賞味期限が切れるようなゲーム機を作るべきではない」とよくおっしゃっていました。その考えを私たちも引き継いでいます。
最高のゲーム機を開発することは大前提。さらに、ソフトウェアのバージョンアップによって新機能を追加できるようにしておけば、発売から数年たっても新しいゲーム体験を楽しむことができます。そんなふうに、遊べば遊ぶほど味が出るゲーム機を開発することが、私たちの目標なんです。
出典:毎日新聞出版『Newsがわかる特別編 半導体がわかる2026』より転載
今回のインタビューを通じて、PlayStationを支えるLSI開発の仕事に興味を持っていただけた方は、ぜひ現在募集中のポジションもご覧ください。
半導体開発戦略リード:PlayStation用カスタムチップ開発の中期戦略立案と推進
PlayStation向けカスタムLSIの開発評価エンジニア(Graphics)
PlayStation向けカスタムLSI開発評価エンジニア(オーディオIP・SoCシステム)


