アクセシビリティから考える、高齢者の身体・認知機能の維持をサポートする取り組み
気軽に楽しめ、コミュニケーションを促進する「リハビリゲーム」
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)とソニーグループ株式会社は、ソニー・ライフケアグループ※1と協力し、同グループが運営する介護付有料老人ホーム「ソナーレ目白御留山」において、高齢者のリハビリに対する新たなアプローチを導入しています。同ホームでは、専用コントローラーやボタンを押す必要がなく、高齢者や障がいのある方でも気軽に楽しめる、身体の動きとインタラクティブエンタテインメントを組み合わせたゲームを試験的に設置しています。
※1 ソニーグループで金融事業を担うソニーフィナンシャルグループ株式会社の傘下で、介護事業を展開するグループ
現在、身体・認知機能の維持を目的に、様々な高齢者施設でゲームが活用されています。ソニーでは、アクセシビリティを重視したデザインを通じて、動作障害や慢性的な痛みなどの障壁にとらわれず、ご入居者が楽しみながらリハビリに取り組めるような介護を目指しています。
リハビリ用ゲーム「キノコビト」をソナーレ目白御留山でトライアル導入
※ゲーム制作協力:Q-Games Ltd.
SIEとQ-Gamesが共同で開発した『キノコビト』は、事前設定の必要がなく、人がモニター前の椅子に座ったことをセンサーカメラが認識すると、自動で開始します。
このゲームでコントローラーの役目を果たすのは、ゲームをする人の「手」です。センサーカメラが椅子に座った人を認識し、その人が画面の前で左右上下に動かす「手」を認識します。ゲームの内容は、画面上から落下してくるキャラクターを、画面上に現れた自分の「手」で受け止め、画面内のキノコの上に乗せていく、というシンプルなものです。ゲーム終了時にはキノコの上に乗せることができたキャラクターの人数が表示され、プレイ結果の記録が見られます。ご入居者のなかには、毎日のようにゲームに挑戦し、キノコの上に乗せられる最大人数を何度も記録した「ヘビーユーザー」の方もいらっしゃるそうです。
本トライアルについて、ソナーレ目白御留山の作業療法士である高橋 歌織は、ゲームを楽しむことが自然と身体可動域を広げる「リハビリ」につながっていることに驚いている、と言います。
「ご入居者のなかには、筋肉の衰えなどが原因で、うつむきがちだったり、手や腕を動かしづらかったりする方もいらっしゃいます。そういった方でも『キノコビト』をプレイする際は、画面を見るために背筋を伸ばそうとする、キャラクターをつかむために手や腕、時には上半身全体を動かそうとする、などの試みを自然に重ねることになり、徐々に身体の可動域が広がってきました。例えば、肘をつかないと洗顔ができなかった方が、ゲーム体験を重ねることで体幹が鍛えられ、以前と同じように洗顔ができるようになった、など、日常生活の動きにも良い効果がみられます」
また、ご入居者間のコミュニケーションにも思いがけない影響があったそうです。
「『あのゲーム遊んでみた?』『何点までいった?』などの話題を通じ、今まで以上に頻繁にお話をされるようになった方々がいらっしゃいます。ソナーレ目白御留山のご入居者同士の関係性にも良い影響をもたらしてくれたと思っています。そして、このゲームはまだ開発中のもので、皆さんに実際にプレイしていただき、感想などいろいろなことを知りたいのだそうです、とお伝えすると、実に多様なコメントをいただきます。ご入居者のなかに、『開発の一つの工程に携わっている』という、ある意味『社会参加』のような意識が芽生えているようにも思えます」
「リハビリというと、専用器具が並んだ部屋で、時には歯を食いしばって取り組む、というイメージをお持ちの方が少なくないと思いますし、そういった面があることも事実です。だからこそ、『楽しんで』リハビリに取り組んでいただける入り口として、『キノコビト』はとてもよいツールだと感じています」
『キノコビト』をプレイ中のご入居者と高橋
ゲームの新たなあり方
今回のトライアルは、「何も身につけない」「何も手に持たない」「設定の必要がない」というコンセプトを基に実施されました。
ソニーグループ クリエイティブセンターの高木 悟郎は、プレイヤーや作業療法士の方々から得た多くのフィードバックが、より良いリハビリ用ゲームの開発に繋がったと言います。「今回の『キノコビト』開発プロジェクトは、SIEとの連携による『身体動作のセンシングデータを活用した新たな提案』としてスタートし、高齢化が進み社会課題にもなっているリハビリテーションに着目しました」
「多くの場合、リハビリは自分と向き合う辛い体験となってしまいます。この点に着目し、ソニーらしく切り口を変え、クリエイティブな問題解決の方法について模索しました。その結果、『楽しみながらリハビリを行なう』というコンセプトを提案し、リハビリをゲームの形に再構築しました。『ゲームで遊びたい』気持ちが原動力となり、通常のリハビリとは違った方向からご入居者の生活に溶け込めていると感じています」
SIE フューチャーテクノロジーグループの宮田 直之は、専用コントローラーに頼らない、ゲームの新しいインタラクションの研究開発を行なっています。
「コアゲーマー以外のユーザー層にもアプローチするために、どのようなインタラクションが有効なのか探るべく、さまざまなトライアルを進めています。検討を進めるなかで、対象の動きを認識するスマートカメラに対し、身体を動かす必然性があるリハビリ分野で非常に大きな需要があることを発見し、プロジェクトが始まりました」
SIE グローバルデザインセンターの松島 正憲は、ゲームのデザインもリハビリの過程で考慮すべき大切な要素のひとつだと言います。
「見た目は非常に重要です。リハビリ要素を全面に出した硬いビジュアルではなく、親しみやすいデザインを設定することで、ユーザーのリハビリに対する心理的障壁を下げることが可能になります」
「ユーザーにリハビリだと過度に意識させずに、リハビリと同等の効果が得られることが理想です。毎日、記録更新のため挑戦されているご入居者には、『キノコビト』をゲームとして受け止めていただけていると感じており、これはまさに我々の意図した結果です」
先端技術を社会貢献に繋げていく
『キノコビト』のようなゲームは、理学療法やリハビリに対する包括的なアプローチのひとつとしてこれからも発展し続けていくと、高木は考えています。「あくまでもリハビリの一環として導入するので、作業療法士が用いる専門的な評価基準も参考に、現場の意見を反映した検証と改良を継続していきます」
「将来的には、老人ホームやリハビリテーションの専門病院だけではなく、個人宅でも体験できるようなゲームに発展させていきたいです。リハビリになかなかアクセスできない方に向けても広く展開し、ソニーグループの先端技術を用いて社会に貢献していきたいと考えています」
左から宮田、高橋、高木、松島
このブログは、ソニーフィナンシャルグループ株式会社のウェブサイト「Stories」に掲載された記事を編集したものです。
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