PS VR2が実現した、これまでにない「現実」体験──商品担当者スペシャルインタビュー
これまでにない「現実」体験を楽しめる、新たなバーチャルリアリティシステムとして登場したPlayStation®VR2。革新的な機能を詰め込んだヘッドセットやPlayStation VR2 Sense®コントローラーはどのようにして作られていったのか、多くの開発者と商品をまとめてきた商品担当者へのインタビューとともに、開発の過程で作成された数々のプロトタイプをご紹介します。
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開発ヒストリー①PS VR2ヘッドセット
まずは、PS VR2ヘッドセットの開発の経緯を語ってもらいました。ヘッドセットの機能や特徴がわかる分解動画が公開されているので、こちらもぜひご覧ください。
PS VR2分解動画(ヘッドセット編)
──開発はいつ、どのようなメンバーでスタートしましたか。
初代PlayStation®VRが2016年に発売されましたが、同じ2016年頃から次の世代をどうするか、企画コンセプトの議論は始まっていました。2016年に企画コンセプトの話をスタートさせて、いろいろな技術をプロトタイピングしていくのは2017年の頭のあたりから検討が開始されました。じつは、PS VRが発売される前の段階から、R&D(研究開発)として将来のVR技術は研究されており、そうした要素を確認しながら、実際の商品にどういうものを載せていくか、どういうものを技術検討していくかは、2017年の頭から細かく議論していました。
メンバーとしては、すでに将来のVRの技術要素を検討していたR&Dメンバー、そしてPS VRの商品化に携わっていたメンバーが多く入ってきました。PS VR2のシステム全体をどのように信号処理していくかを検討するLSI開発部のメンバー、トラッキングシステムを検討するメンバーや映像出力を検討するメンバー、LSI周辺を含めて電気回路全体を見るメンバー、それらを実際にヘッドセットに入れ込むメカニカルのエンジニアなども入って、大きなチームで分野を分けながら検討していきました。
──今までのご経験の中で、長い開発期間とお考えでしょうか。
かなり長かったと思います。PS VRのときも長かったと思いますが、PS VR2のほうがさまざまな技術領域に対して深い考察をして、それをまとめ上げていくことをやっており、それぞれに検討する期間をしっかりとかけて、非常に密な6年間でした。
──開発の段階で一番長くかかった機能やデザインはどういった部分でしょうか。
企画の段階で、いろいろな新しい機能を導入したいと考えていました。視線トラッキング、ヘッドセットの振動、またPS VRと違ってケーブル1本で接続することで、システムの構成がガラリと変わっています。そのシステムをヘッドセットの中に入れ込んでいくのですが、軽量でコンパクトなデザインにする必要があります。それを実現するためには、すべての機能を効率よく処理するシステム設計が重要でした。そのため、初期の段階でLSIのチームと、主にソフトウェアのエンジニアは、細かい見積もりをしながら最適なシステムにできるか議論を重ねました。初期段階では非常に重要な部分であり、システム検討じたいの期間はそこまで長くなかったかもしれませんが、プロトタイプができてからもシステムの最適化は常に続けていました。
また、ヘッドセットの装着感や持ち心地を快適に仕上げることにも時間をかけました。
──ヘッドセットの初期プロトタイプからどのくらいの軽量化を実現していますか。
初期のプロトタイプは、初代PS VRの筺体に対して、新たな機能をどのように搭載すればいいかを検討していたので、重さよりも機能評価を重視していました。トラッキングのシステムとして何が最適かを検討し、「アウトサイド・イン/シースルー試作機」ではシースルー用カメラの検討も同時に行なっています。
機能評価をしていったあと、実際にシステムとして統合させます。「トラッキングシステム検討試作機」は統合直前のプロトタイプとなっており、非常に大きくて重たいものですが、評価としては重要です。
装着性の快適さも並行して検討していました。想定される重さはわかっていましたので、それを前提に、どのような被り方の機構にするのかもさまざまな検討を行ないました。いろいろな機能を多く追加していますが、最終的には被って軽いと思えるようにするため、素材と形状は徹底的に考えました。各コンポーネントじたいの軽量化や、デザインもできるだけシンプルにし、プラスチックの厚みも強度を保ちながら極限まで薄くしています。こうした軽量化と強度のバランスは、メカニカルのエンジニアががんばって調整してくれました。
──PS VR2の重要な機能のひとつが視線トラッキングですが、どのような経緯で開発されましたか。
PS VR2では遊びの体験を広げようと考え、新しいUIとして視線トラッキングの導入を検討していました。視線トラッキングの技術は以前からありましたが、VRとの相性が良い技術であることはわかっていたので、それをきちんと使いこなしたいという思いでした。また、圧倒的高画質を実現するために、見ているところだけ解像度を高く保ち、注視点以外はレンダリングのパフォーマンスを抑える、フォビエートレンダリングを使うことも検討しました。
──視線トラッキングの検証において何か苦労はありましたか。
眼鏡を掛けている方もいますし、人種によって目の色にも違いがあり、あらゆる人に使ってもらえるようにする必要があります。正しくトラッキングできるように、さまざまな方に被っていただいたデータを集めて、長い時間をかけて最適化していきました。
──ヘッドセットの振動機能はPS VR2ならではの特徴ですが、最初どのような経緯で機能に追加され、どう開発を進められましたか。
メカ設計のエンジニアが、PlayStation®4用のワイヤレスコントローラー(DUALSHOCK®4)の振動子を取り外して、PS VRにつけて遊んでみると、没入感が高まり違和感が減ることがわかりました。ただ、実際に搭載すると大変なことも多くありました。「視線トラッキング評価試作機 その2」には振動子も付いており、振動子が視線トラッキングやヘッドトラッキングにどのような影響があるかを検証しました。
ゲームを作るPlayStation Studiosと密にコミュニケーションを取っていますので、プロトタイプを使ったフィードバックをもとに、どんな振動が効果的かを一緒に評価していきました。そこで得られた知見は、ほかの開発者の方にもわかるように、デザインガイドに盛り込み、多くのデベロッパーの方に参考にしてもらいました。
──PlayStation Studiosからどのようなフィードバックを取り入れましたか。
例えば、トラッキングカメラの配置については、実際のゲームで想定される手を動かす範囲などを確認しながらフィードバックに基づき調整しています。PlayStation Studiosメンバーが集まるイベントがサンフランシスコで行なわれたとき、日本からプロトタイプを持っていって、その場で得たフィードバックに基づいて調整するといったこともありました。
開発ヒストリー②PS VR2 Senseコントローラー
続いて、PS VR2 Senseコントローラーの開発について振り返ってもらいました。PS VR2 Senseコントローラーの分解動画も公開されているので、合わせてご覧ください。
PS VR2分解動画(PS VR2 Senseコントローラー編)
──開発はいつスタートしましたか。
ヘッドセットと同じく、2016年から検討を開始し、2017年からプロトタイプの開発が始まりました。インサイド・アウト方式はヘッドセットと対になるトラッキング技術ですので、そこは初期段階から検討しました。また、どんな機能を入れていくか議論し、ボタンの数をいくつにするか、PlayStation®5用DualSense® ワイヤレスコントローラーに搭載されている機能をどこまで入れられるのかなど、プロトタイプを作りながら検討していきました。
メンバーは電気設計、メカ設計、R&Dなどのほか、デザイナーも入りました。どのような形状にするかは、デザイナーがいろいろな形状を検討してくれました。
──開発の段階で一番長くかかった機能やデザインはどういった部分でしょうか。
ハプティックフィードバック、アダプティブトリガーといった、DualSense ワイヤレスコントローラーに使われている機能も入れ込んでいます。さらにフィンガータッチ機能に用いる指検知センサーも追加していますが、それをいかに持ちやすく軽くするかは、時間をかけながら調整しました。ユーザーテストもたくさん行ないました。PlayStation Studiosにはユーザーテストチームがあり、できるだけ多くの人種の方に評価してもらえるように、主にヨーロッパのチームと密にコミュニケーションを取りながらテストを繰り返しました。
──現在の形状になった経緯を教えてください。
最も初期のプロトタイプである「プロトタイプ 1」はトラッキング方式が異なり、PlayStation®Move モーションコントローラーのスフィアで対応していますが、アダプティブトリガーやハプティックフィードバック、指検知センサーも入っていますし、L1やR1もショルダーボタンとして付いています。このように搭載して、どの機能が本当に重要かを検証するためにプロトタイピングしました。
「プロトタイプ 2」は、トラッキングがインサイド・アウト方式になり、IR LEDをどこに配置するか検討するための試作機です。このとき、「プロトタイプ 3」のように形状違いのものもいくつか作られました。
「プロトタイプ 4」は現状の最終形に近いものですが、大きく違うのはグリップのサイズです。いろいろな機能を入れ込んだ結果としての形状であり、アダプティブトリガーやハプティックフィードバックなど、もちろんバッテリーまで入ると、この形状になってしまいます。しかし、さすがにゲーム使用時にずっと持っているのは厳しいので、ここからいかに持ちやすいデザインできるかを考え、メカや電気のエンジニアが、細く、最適化する努力をしていきました。
──指検知センサーなど、過去にない新しい機能を追加する際、どのような検証を行ないましたか。
アダプティブトリガー、ハプティックフィードバック、指検知センサーなど、VRでの没入感を向上させる要素を盛り込んだプロトタイプを作成し、指検知センサーはボタンを押す方式を含め、いろいろな形式で検討しました。
プロトタイプを作成するたび、PlayStation Studiosからのフィードバックを得ながら検証しています。実際にゲームでどのようにコントローラーを使いたいかをヒアリングして、どの機能をどのように入れ込めばいいのかを擦り合わせていきました。最適なボタンの数は何個であるべきかなどは、ゲームを作っている側でないとわからない部分ですので、しっかりと意見を聞いて進めています。
──手にフィットする今の形は、どのような目的と経緯で今の形になりましたか。
握りやすいこと、そして長時間遊んでも疲れないようにするための軽量化と重心のバランスを目的としました。何度もプロトタイプの作成とユーザーテストを繰り返し、快適なフィット感になることを追求しました。コンポーネントをふつうに組み合わせていくだけでは十分でなく、内部構造をドラスティックに変更する必要がありました。「プロトタイプ 5」は製品版に近い形状になっていますが、フィット感はまだ最適化されていません。
──開発時にはIRトラッキングにも非常に力を入れたと思いますが、プロトタイプを作るにあたり当初の想定と大きく変わりましたか。
初期検討の時点では、インサイド・アウトとアウトサイド・インのどちらがいいか明確にわからなかったので、ふたつ並行して検討を進めました。ふたつの検討チームに分けて、それぞれのプロトタイプが作られています。その後、インサイド・アウト方式に舵を切り、トラッキングの最適化を続けました。ヘッドセットのトラッキングカメラ配置検討試作機は、4つのカメラの位置や角度をダイヤルで細かく調整できるようになっており、カメラが検知できる範囲を検証しました。
──検証の段階からソフトウェアの開発は携わっていましたか。どのようなフィードバックを取り入れましたか。
実際にゲームの中でどのような動きをするか、すべてを想定できたわけではなかったので、技術検討の早い段階からPlayStation Studiosのチームから商品仕様案に対するフィードバックをもらっていました。例えば、立った状態で腰のあたりにある物を手に取るとして、頭は前を向いた状態のまま取れなければいけないので、下のほうまでカメラが検知できるようにしました。一方で、弓矢を背中から取り出すようなときは、カメラに入らない位置に腕が動きます。コントローラーがカメラに入らないとき、どのような処理をすれば自然にトラッキングできるかは、フィードバックをもらいながら調整を続けた部分です。
アダプティブトリガーとハプティックフィードバックの両機能を搭載しながら、エルゴノミクス(人間工学)を最適化するのは困難でしたが、ソフトウェア開発からの強い要望もあってやり通しました。アダプティブトリガーは指先のトリガーに位置する必要があり、ハプティックフィードバックはグリップを握ったところで振動を感じてもらう必要があります。アダプティブトリガーのモジュールサイズはそれなりに大きく、ハプティックフィードバックのモジュールやバッテリーも入ると、いろいろなコンポーネントがグリップエリアに重なってしまいます。その状態では、エルゴノミクスとして快適ではありません。もともと、アダプティブトリガーはDualSense ワイヤレスコントローラーのコンポーネントをうまく流用するつもりでしたが、PS VR2 Senseコントローラー用にカスタマイズした専用モジュールを作るといったこともしています。
──最後に、PS VR2の体験に期待するところを教えてください。
初代PS VRは数多くのゲームデベロッパーの方々に使っていただき、VRゲームの世界が広がっていきましたが、PS VR2でさらにその可能性を大きく広げることができていると思います。4K HDRのすばらしいビジュアルを表現できるようになり、視線トラッキングでも効率的なレンダリングでクオリティの高いグラフィックを実現しました。また、コントローラーを握り、ヘッドセットを被ったときに、より快適に遊んでいただけることで、クリエイターの皆さんが作ったVRの世界にどっぷりと浸る体験も広げることができたと思っています。これからもどんどんVRゲームが出てきますので、存分に楽しんでいただきたいと思います。