リーダーシップ・スポットライト:Bryan Intihar、シニアクリエイティブディレクター、Insomniac Games
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)では、多才なプロフェッショナルが働いています。彼らのような人材と、クリエイティビティと成長を促進するリーダーたちが力を合わせることで、プレイヤーの皆さんにとって素晴らしい体験がもたらされます。
Insomniac Gamesでシニアクリエイティブディレクターを務めるBryan Intiharは、自身の役割を「共通したクリエイティブなビジョンに向けてチームのモチベーションを高めること」だと言います。さらに大胆な行動力と決断力をもって、さまざま魅力的なアイデアをゲームに取り入れていくことも役目の一つです。 Bryanは、15年以上にわたりInsomniac Gamesの一員として、ダイナミックな才能を持つチームをリードしながら、『Marvel's Spider-Man』(2018年発売)や最新作『Marvel's Spider-Man 2』(2023年発売)など、世界的に高い評価を得たヒット作を世に送り出してきました。
本記事では、大ヒットを記録してきた作品の数々を通じて、Bryan自身がリーダーとしてどのように成長しステップアップしてきたのか、また、対人関係、信頼感、個人に合わせたサポートの大切さに対する考え方などについて話を聞きました。
アイデアを紡ぐ
クリエイティブディレクターとはどのような役割なのでしょうか。答えはチームによって異なるものの、いくつかの共通点が存在します。Bryanの場合、一番の目標は、開発チームを団結させるような共通のゴールとクリエイティブなビジョンを示すことだと言います。「私たちは、チームメンバー全員が納得し、朝一番の仕事として取り組みたくなるようなビジョンを提示しなければなりません。そして私の役割は、彼らがそれらのアイデアを自分のものにする力を与えることです。チームを鼓舞し、日々背中を後押しすることで、彼らは自分の限界だと感じている以上のことが実現できるのです」
つまりBryanのリーダーシップ哲学は、解決策ではなく、問題を提示するということです。決まった回答がない「なぜ」というオープンエンドの質問をチームメンバーに投げかけ、それぞれの目標や状況に対する個別の対処法を模索します。「ゲームのミッションの設定でもゲームデザインの仕組みの構築でも、もっとも避けなければいけないことは、“何をして欲しいのか教えてくれ”とメンバーに言わせてしまうことです。その時点で、彼らは創造性や意欲、やる気を失い、ひたすら業務をこなすだけになってしまいます。そのような場合は、ただ答えるのではなく、彼らが本当にやりたいことや、やりがいを感じることについて、もっと深掘りするのが効果的だと思います」チームメンバーに「なぜ」と積極的に問うことは、Bryanのリーダーシップスタイルにとって欠かせないポイントです。
ただし、5人、あるいは20人ものチームから複数のアイデアが提案されると、リーダーシップは少し複雑になります。このような場合に重要なのは、すべてのアイデアに対して「イエス」と頷くことではないとBryanは言います。そしてこれは、クリエイティブディレクターとしての役割や決断力に関わる大切な要素のひとつです。「難しいのは、チームがなにかに熱中しているときです。“このアイデアは私たちのクリエイティブなビジョンや方向性と一致しているのか?”と彼らに問いかけ、見直す時間を作ることが重要です」
アイデアは後から削ることはできるので、最初は多ければ多いほど良いとBryanは言います。ただし、「すべてのアイデアは皆の情熱や想いから生まれるものなので、それを止めるための議論はあまり好きではありません」と付け加えました。
Bryanがもっともワクワクする瞬間は、「最終的な成果が想像をはるかに超える出来になったときです。ゲームのミッションや機能、あらゆる仕組みなど、すべての要素が洗練され、より良い仕上がりになったのは、チームが初めのアイデアを自分たちのものにする方法を見つけたからだと一目で分かるからです」
チームの絆
チームのグループダイナミクス(人の行動や思考は集団から影響を受け、また、集団に対しても影響を与えるという考え方)を考慮しながら、大勢のメンバーのモチベーションや向上心を維持する方法のひとつは、共感する力やコミュニケーション、アカウンタビリティ(説明責任)を重視する職場環境を築くことだとBryanは言います。「私は、自分自身やほかのリーダーたちに対して、自分の限界を超えたなにかを実現する、という具体的な課題を掲げています」
これを達成するための重要なステップは、誰もが尊重され、自由に発言し、歓迎されていると感じられるような環境づくりを推進することです。「私たちはリモートワークを全面的にサポートしていて、すでに複数のゲームタイトルをリモートでリリースしています」とBryanは説明します。Insomniacでは対面で働けるオフィスと、バーチャルな環境で働けるリモートワーク、両方のオプションをチームのニーズに合わせて提供しており、このような対人関係を重視するアプローチは、チーム全体にとってポジティブな影響をもたらします。オープンコンセプトのオフィスやオープンドアポリシー、柔軟性のあるリモートワーク体制なども、これらの取り組みの一環です。Insomniacでは、直接会ってミーティングを行なうチームもいれば、リモートで毎日または四半期ごとにミーティングを行なうチームもいるとのこと。学生時代に心理学を専攻したBryanは、さまざまな外的要因への配慮や、人それぞれに合わせた柔軟な対応が大切なのだと説明します。「私は人を分析しているわけではありません。特定の人とどのように接するかは、その人の性格によって異なるものであり、それを考慮しなければならないことを理解しているのです」
さらにBryanは、コミュニケーションの壁や難しさについても、オープンな考え方を持っています。「チームの誰かがハッピーでなければ、私もハッピーではありません」Insomniacの代表作である『Marvel's Spider-Man』と『Marvel's Spider-Man 2』、それぞれのキャッチフレーズは「Be Greater」と 「Be Greater. Together」ですが、時には限界を受け入れ、責任を果たし、誠実であることがとても重要なのだと、Bryanは言います。「私が何年もかけて学んだことは、すべてを知り、理解する必要はないということです。時には弱音を吐いても良いし、むしろ自分の弱さをオープンにすることで周りに人が集まってくることもあります。だからこそ、Insomniacはとても特別なのだと思います」
こうしたあらゆる取り組みは、チームだけでなく、スタジオやゲームのプレイヤーに対する責任と、皆が共有するクリエイティブなビジョンを実現するためのモチベーションにつながると、Bryanは考えています。Insomniacのコミュニティーマネージャーとしてスタジオに加わったのは何年も前ですが、それ以前から現在に至るまでの彼の成功と成長の多くは、ベストなタイミング、場所、そして出会いによるものだと言います。自身のキャリアを振り返ったとき、Bryanは、未知の領域に踏み込まなければいけない瞬間を見極めてきた、と説明します。
ステップアップへの道のり
幼い頃の夢であったアメリカンフットボールのプロ選手になれなかったことを除けば、これまで理想の仕事に携わることができた理由の大部分は、幸運なタイミングと自分自身のモチベーションによるものだとBryanは言います。Insomniacに入社した当初から、スタジオのオープンなカルチャーのおかげで、彼にとって魅力的で好奇心を刺激するような仕事の数々に携わることができました。「Insomniacでは、裏で糸を引いているような人物はいません。全員が表舞台で活躍しているのです」 Insomniacでディレクターを務めるMarcus SmithやDrew Murrayと密接に仕事をするなかで、クリエイティブなプロセスだけでなく、ゲーム制作自体についてもBryanは多くの学びを得ました。「彼らからは本当にたくさんのことを学びました。そして最終的には、彼らの全面的なサポートのもと、さまざまなプロジェクトでクリエイティビティを発揮する機会を得られました」
また、あらゆる状況や才能に対するアンテナを張っておくことも重要だとBryanは言います。現在のクリエイティブな役割を担うに至った経緯については、「才能のある人たちにいつも惹きつけられるのです。私はキャラクターアーティストやプログラマーにはなれませんが、人と関わることは好きですし、几帳面な性格を持っています」と説明します。「制作面でチームをリードする自信はあった一方、よりクリエイティブな立場でプロジェクトを指揮してみたいと考えていた当時、タイミング良くInsomniac、SIE、Marvelの3社がコラボレーションに関する話し合いを進めていました。Insomniac Gamesのプレジデント 兼 創設者であるTed Priceと、当時私の上司だったJohn Fioritoに相談してみたところ、幸いにも2人ともBryanの役割の変更に頷いてくれたのです」
成功の連鎖
リーダーになるまでの道のりは、決して自分だけの努力によるものではないとBryanは言います。「私たちが世に送り出してきたゲーム、そして達成してきた取り組みの多くは、一人の人間による成果や発案、考えによるものではなく、チーム全体の努力の結果です」Bryanはこれまで、大好きなチームとのコラボレーション、コミュニケーション、パッションを通じて、ゲームを完成させることを目指してきました。「スーパーヒーローが大好きだった子供の頃の自分が誇りに思い、喜んでプレイするような作品を作るというミッションは達成することができました。これらのゲームや、クリエイティブディレクターという役割を含めた私の成功はすべて、共に働くチームなしにはあり得ません」
Bryanがもっとも伝えたいメッセージは、日々の行ないや仕事仲間に対しても、常に真摯かつ正直であることだと言います。決断力のある行動と自身の仕事に対する責任感は、他者と仕事をするうえで、どのような職場においても大切なスキルです。制作系の職場は特にそうです。組織の大きさに関わらず、チーム間や部署間の役割についての理解を深めることや、ちょうど良いバランスと強力なサポート体制が合わさることで、素晴らしい成果や作品へとつながるのです。
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