プレイステーション®ならではの体験を語るうえで、興味深い世界観と魅力的な登場人物は欠かせません。ノーティドッグの「ジャック×ダクスター」シリーズや、Insomniac Games(インソムニアックゲームズ)の「ラチェット&クランク」シリーズ、サッカーパンチ・プロダクションズの『inFAMOUS』などの懐かしい作品から、『Ghost of Tsushima』、『The Last of Us Part II』、そして『Marvel’s Spider-man: Miles Morales』といった近年のヒット作まで、私たちはプレイステーションの作品を通じて素晴らしい物語の数々をお届けしてまいりました。そして、これらの作品のようなゲームのストーリーを作ることは、正義のヒーローが立ち向かってきた試練や悪役のヴィランたちの苦悩以上に、奥が深いものがあります。

ゲーム制作に馴染みのある方であればご存知の通り、ゲーム作品のコンセプトやストーリーラインを構築していく上で、いくつかのプロセスが存在しますが、その中でユーザーの皆さんが気付かないところで脚本が活きることがあります。ゲームにおける「ナラティブ・デザイン」*は、ストーリーの執筆作業を、より洗練された表現に言い換えたもののような印象を持たれるかもしれませんが、実際のところ、関連性はあるもののそれぞれ異なるスキルセットになります。 前編・後編に分けてお届けする本記事では、『Marvel’s Spider-man: Miles Morales』、『フィスト 紅蓮城の闇』、『マケット』の制作陣に、ゲームのストーリーを執筆する上で重視していること、それぞれがこれまで歩んできたキャリア、そしてライター志望の方向けのアドバイスなどについて伺いました。
*誰に対しても同じ物語を伝えるのではなく、ゲームプレイを通じて、プレイヤーごとに得られるゲーム体験をデザインすること

まず大前提として、ストーリー作りとナラティブ・デザインの違いは何でしょうか?

ゲームのストーリー作りとナラティブ・デザインの違いとは

Insomniac Gamesのアドバンスト・ライター、Mary Kenney氏いわく「正直、二つの言葉の意味の違いは、時と場合にもよりますが、手がけるスタジオとプロジェクトによって変わります。一般的には、ゲームシナリオライターはストーリーや登場人物、そしてテーマを重視します。その上でカットシーンやゲームプレイ中のナレーション、画面上に表示されるテキストなど、ゲームの中でストーリーを伝える方法を考え、時には新たな手法を考案し、それらを文字に起こします。一方で、ナラティブ・デザイナーは、ストーリーの展開やペースにあわせて、ステージのレイアウトや、ナレーションをいれる場所、ゲームのメカニズムを考えます。実際のところ、ゲーム・ライターとナラティブ・デザイナーの作業は重複する部分も多く、プロジェクトごとに役割や業務内容が異なります。そのため私の肩書も、あるときは『ゲーム・ライター』、またあるときは『ライター』、もしくは『ナラティブ・デザイナー』、『ナラティブ・ライター』、『ストーリー・デザイナー』…など、さまざまな名称で呼ばれてきました。そのプロジェクトが何に重点を置くか次第で、自分の立ち回り方も変化します。」

Graceful Decayのライター、Hanford Lemoore氏は「特に『マケット』の場合、雰囲気、音楽、ビジュアル、パズル要素の含む全体的な体験がナラティブ・デザインであり、ゲームの物語はその要素のほんの一部に過ぎません」と語ります。「『マケット』が独特なのは、ゲームの大前提が台詞や文章で語られないことです。再帰的な世界や、パズルについて、すべての場所に巨大なドームが存在する理由など、説明は一切ありません。それでも、ストーリーのテーマを示す台本は非常に重要で、プレイヤーの皆さんがご自身でこの世界の全体像を把握するためには欠かせない存在となります。」

『フィスト 紅蓮城の闇』のプロデューサーであるIsaac Zhang氏の意見によると、「ゲームのストーリーを執筆する際、さまざまな課題に直面しますが、プレイヤーの多くはユニークなファンタジーや非日常な世界が描かれることを期待しているので、特にゲームの世界観の構築に苦戦すると思います。もちろん、現実の世界を題材にしたゲームもありますが、ナラティブ・デザインとは、プレイを始めてから最初の20時間、細かく作りこまれたプロットの中で、プレイヤーの皆さんが感じる体験を設計することです。」

ストーリーとゲーム性

プロのゲームシナリオライターを目指す方にとっては、「ストーリー」が何を意味するかを理解することが重要です。Kenney氏は、ゲーム内で起こるすべての要素がストーリーに繋がる、と説明します。「ストーリーとは、単に文章やセリフを指しているわけではありません。それは、登場人物の寝室に置かれた家具や、キャラクターの初登場シーンで流れる楽曲、アクションシーンにおける天候、プレイヤーによる(走る/登る/跳ぶ/泳ぐなどの)操作を指すこともあります。ライターにとって、言葉は数多くあるツールのひとつに過ぎません。素晴らしいゲーム体験を作るためには、自分にはないツールを持つ人たちと密接に協力し合うことが重要です」。

一方、Lemoore氏とZhang氏は、ストーリーを伝えるための最適な方法を提示しました。Lemoore氏は、「ゲーム制作の初期段階で、ストーリーとゲームプレイをどのように共存させるかを決める必要があります」と語ります。「ストーリーを上手く伝えられれば、ゲームがより良いものになるというご自身の感覚を信じてみてください。長いストーリーがなくても面白いゲームはありますし、例えばスキップできないカットシーンや、画面いっぱいに表示される大量のテキストのように、逆にストーリーがゲーム体験を損ねることも多々あります。」

Zhang氏は「『フィスト』のような作品の場合、操作感や、ゲームの盛り上がりにストーリーを合わせる必要があります。」と語ります。「例えば、10分間も続く長いストーリーシーンを作ってしまうと、プレイヤーはポテトチップスをつまむために、一度コントローラーを置いてしまいます。それを防ぐために、ストーリーを細かく分割し、ゲームプレイの合間に散りばめていく必要があります。デザイナーがステージ設計のアイディアを新たに提案してくると、物語にその要素を組み込みたくなるときもあります。」

ゲームシナリオライターを仕事にするには?

これさえすればゲームシナリオライターになれるという絶対的な方法はありませんが、柔軟性と多面性を持つことはとても大事です。Zhang氏は「周りには優秀なプログラマー、アーティスト、デザイナーがいたので、自分に残された道はライターになる他なかった」と冗談を言うほどです。

「インディーズゲームを作る際、チームメンバーの間で明確な役割分担はありません。一人ひとりが、さまざまな業務を行う必要があります。私はたまたま『フィスト』の執筆を担当しましたが、幸いにもチーム内で私の考えたストーリーが好評で、私自身も楽しんで書くことができました」。

Mary Kenney氏は、20代半ばに大学院でゲームデザインを学ぶまで、ジャーナリストや雑誌編集者などを経験し、まったく異なる分野からキャリアをスタートしました。「大学院を卒業してから1年後、Telltale Games社にインターンとして採用され、やがてリード・エピソード・ライターになりました。過去5年間はゲームの執筆しかしていません。」とKenney氏は語ります。

「小さい頃からテレビゲームをプレイすること、そして本を読んだり書いたりすることが大好きでした。そんな私にとってゲームは、素晴らしい本の世界にガイドなしで飛び込み、完全に没入するのと同じような体験を味わえるものです。ライターになってからは、私が本当に興味を持っていたのはフィクションとインタラクティブ性なんだと理解するまでに少し時間がかかりましたが、今ではこの世界に飛び込んで本当に良かったと思っています。」

後編に続く

言葉を通じて、ゲームデザインや設定、ゲーム中に収集するアイテムなどに一貫性や説得力が生まれます。そして、没入感を高めるためには、これらの要素が一体となって機能することが重要です。本記事では最高のゲームを制作するチームの舞台裏を垣間見ることができたと思いますが、後編ではKenney氏、Zhang氏、Lemoore氏に、異なるジャンルのゲームにおけるストーリーの執筆や、制作プロセス、コラボレーションについて、それぞれの考えをお話しいただきます。

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