ゲームはどうやって「書く」のか? プロ視点で語るプロセスとアドバイス
本記事の前編では、ゲーム制作のプロフェッショナルであるInsomniac GamesのMary Kenney氏、Graceful DecayのHandford Lemoore氏、そしてTiGamesのIsaac Zhang氏の三名が、これまでの体験や将来ゲーム業界への就職を検討している方へのアドバイスを語り、「ナラティブ・デザイン」と「ストーリー作り」の違いについて、またゲームプレイと物語が相互にどう影響するのかについて、そして今の立場に辿り着くまでどのような苦労があったかなどについて触れました。
今回の後編記事では、ゲームライターとして駆け出しの頃にやっておいたほうがよかったこと、編集におけるプロセス、そしてゲームジャンルの違いがストーリーの書き方にどう影響するか、という三つのトピックについて伺いました。
チームワークこそ鍵
― 皆さんが新人ゲームライターだった頃、こんなアドバイスがあったらよかったと思うことはありますか?
Kenny氏:私は、ゲーム作りは多くの人を巻き込むものだということを知っておきたかったですね。私はもともとジャーナリストで、物書きというと孤独なイメージがありました。文章を書く際の現地調査も、事実確認も、執筆作業も完全に独りでしたが、ゲームライターになってからはソロプレイヤーでいることより、チームプレイヤーでいることのほうが好きになりましたね。チームの中で働くという環境に馴染むまで2,3年はかかりましたけど。
Zhang氏:私なら昔の自分に、開発チーム全体を意識しろ、と言うでしょうね。文章構成やト書きだけを考えれば良いという訳ではなく、この物語をどのようにしてインタラクティブな体験にしていくか、ということは常に頭の片隅に置かなくてはなりません。ゲーム開発において、脚本家が守るべき独特なルールがいくつかあります。例えば、ゲーム内のカメラ視点の移動を気にしたり、ムービーシーンが丸ごとスキップされてしまう場合もあることを考慮して書く必要がありますが、一度そういった緻密な脚本作りに慣れてしまえば、新しいアイディアが湧き出てきます。
Lemoore氏:『マケット』を作ったときに、たとえゲームの脚本作りであっても、さまざまな方々に色々な形で執筆に携わっていただけるという可能性を感じました。私は主にストーリーとゲームプレイがどう繋がるかといった大局的な課題に取り組み、それに対してプロデューサーのJames Masiはキャラクターとしてのリアリズムや会話ごとの流れなど細かいところを見ていました。Kenzie役を演じたBryce Dallas HowardさんとMichael役を演じたSeth Gabelさんと一緒に仕事をした際は、各シーンをさらにいいものに仕上げるため、私とMasiからは演者側からも脚本の提案や、台詞の言い換えを積極的に促しました。
―具体的にどのように促すのでしょうか?
Lemoore氏:収録中、私はPC上でGoogleドキュメントに書いた台本を開き、BryceさんとSethさんも手元のiPadで同じファイルを読みながら演じていただきました。お二人と直前まで相談していた脚本の変更箇所をGoogleドキュメントで更新すると、iPad側でもリアルタイムで台本が更新されます。気軽に変更を行えるようにし、収録現場に脚本家も同席してもらい声優がいる前で更新していくことで、台本がさらに洗練されたものになるのです。
制作物には大変満足していますが、それでもプロセスにはまだ改善の余地があると考えています。というのも、プロジェクトの監督だけでなく、コーディングやそれ以外の多くの仕事も抱えていた私自身が制作のボトルネックになってしまったのです。『マケット』の脚本家であるGracie Gardnerが数々のアイディアを提案してくれたのですが、ゲームプレイとの整合性を検証できないこともありました。今振り返ると、しっかり吟味できるような時間を作るべきだったと思います。
ジャンルごとに異なる執筆プロセス
ゲームスタジオのなりたちやゲームの開発方法が一つ一つ異なるように、ゲームのストーリーとナラティブ・デザインの違いにも絶対的な正解はありません。これは開発プロセスについても同様ですが、ジャンルが全く異なるゲームの台本を作る場合はさらに複雑になります。
―皆さんが手掛けられた台本は、どのような過程を経て完成したのでしょうか?
Lemoore氏:『マケット』はパズルゲームなので、パズルの開発がほぼ完成した段階からストーリー作りに着手しました。パズルの登場する順番や難易度を念頭に、内容を「ムードマップ」に照らし合わせながら、それとなく三幕構成となるように大枠を描きました。
ゲームデザインを見ながら、ゲーム内で操作できる要素とストーリーをどう組み合わせられるかを考えるのがいいと思います。「ストーリーを通じてパズルの解決方法を暗に示せるか?」「ユーザーはパズルを解くためにストーリーを知る必要があるか、あるいはストーリーを観なくとも進められるのか?」 といった自問に対する答えをチームとともに早くから見つけていました。
なぜならば、私たちはゲームのストーリーと、解いている再帰的なパズルとの類似点を見出せるようにしつつ、ストーリーそのものにゲームを進めるために必要な明確なヒントは入れないようにしたかったからです。
ストーリー全体を通してこれを一貫させることが私たちのゴールで、次に進むための答えが直前のムービーや手紙に含まれている、といった認識の違いをユーザーの皆さんにさせないようなストーリー作りを意識しました。
Zhang氏:『フィスト 紅蓮城の闇』(以降、『フィスト』)は横スクロール探索型アクションゲームなので、レベルデザインを中心におき、そこからゲーム全体を構成していきました。チームとコンセプトデザインを考える初期段階から、本作を「エレガントにスタート」させ、「エキサイティングなエンディング」を迎える方向で合意していましたが、細かいディテールや台詞については、レベルデザインが完成してきた段階でやっと手を付け始めました。
そのころには、全体のスケール感や話の終着点もだいぶ固まっていたため、ナラティブ・デザインを磨き上げることができました。
Kenny氏:どのようなジャンルであっても、ストーリーは魅力的で、記憶に残るキャラクターや生き生きとした瞬間が必要です。ゲームのジャンルが違えば、ストーリーを伝える方法も変わります。私はこれまで、RPG、シングルプレーヤーのアクションアドベンチャー、VRの子供向けパズル、ボイスオーバーなしのターン制ゲームに携わってきました。どれも異なる方法でストーリーを展開しました。例えば、吹き出しや声の演技、ゲーム中に拾う読み物を通じて伝えることもあれば、全く文字を使わずにストーリーを進めたり、ビジュアルだけでプロットを作成することもありました。
―どういうことに気を付ければいいのでしょうか?
Kenny氏:ゲームライターにとって、担当するゲームをプレイしたときのテンポ感や、その時の感情を深く理解することは非常に重要です。というのも、ストーリーを語るのに必ずしも台詞がいるわけではないのです。台本を書くとき、多くの方は最初に台詞作りを想像するかもしれませんが(もちろん、台詞も大事ですよ)、ストーリーを作るためにはまず、どのようなステージがあり、どんな障害物やキャラクター、そして環境がユーザーの皆さんを待ち受けているのかを把握する必要があります。
編集作業を乗り切るためのポイント
原稿を編集する作業、とくに大量の時間と労力をつぎ込み、愛着も湧いてきた大切な作品の一部を削るプロセスは、作家にとって最も難易度の高い作業のひとつです。
―原稿は完成するまで何度も修正されるものかと思いますが、苦労も多いのでしょうか?
Kenny氏:最初の原稿から次の原稿へと移行するときにこそマジックが起きます。『良い執筆とは書き直すこと』だと言われますが、本当にその通りなんです。『どうしよう、これが良いものになるのかな?』と思っていたストーリーでも、編集すると『ああ、これで良いものになるな』と感じられるようになります。
その上で、一番辛いのは内容を削る作業です。好きなキャラクターが登場するシーンや成長していくさまが、ストーリーの他の部分と上手くあわなかったり、プレイヤーの集中力が切れる程長いのに必要な情報が伝わらないシーンは、カットしたり縮める必要があります。キャラクターの成長を描く素晴らしいシーンは、中盤で見せるよりクライマックスに回した方が良いかもしれませんし、(これは特に悲しいですが)メインストーリーよりも脚光を浴びてしまうようなサイドストーリーは全カットすることになるかもしれません。
私がお伝えできる一番のアドバイスは「削除する要素は決してそれ自体が悪いから削除されるということではなく、このストーリー上ではうまくマッチしなかっただけ」と考えることです。もし今回採用されなかったキャラクターやシーンがあっても、今後のアイディアとして心の中にストックしておいて、何か別のものを作るときにぜひ合わせてみてください。
Zhang氏:私たちの『フィスト』では、ゲームプレイ自体に夢中になれるように、作中から多くの部分をカットしました。特に登場人物の過去に関する詳細な情報を大幅に削りましたね。例えば、主要キャラクター同士の交友関係、隠遁生活の果てに主人公のレイトンが鬱病を患うようになったことなどです。
これらの情報も含めればストーリーはより豊かになるでしょうけど、全体の進行を遅くしてしまい、主人公の旅に時間がかかると思います。ただ、もしそういった情報にプレイヤーが興味を持ってくれれば、次回作を作るチャンスだとも考えています。
Lemoore氏:ゲーム全体のビジョンに何度も立ち返ることで、ストーリーの要素をカットするときの辛さが和らぐことに気が付きました。脚本の初期段階で、それぞれのカットシーン別に何を目指すのか、なぜそのような選択をしたのかという、私の考えを説明する前書きを作りましたが、それがあって今どこにいるかを振り返るための一歩となりました。
『マケット』からは最終的には多くのものをカットしましたが、私は未完成のアイディアを保存するフォルダを持っていて、ゲームのアイデアや良い言い回し、あるいはストーリーに取り込みたい感情をメモしたものなど、常にそこに追加しています。なので、私にとって編集は辛いことではありません。良いアイディアは残りますから。
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