ディスラプション時代における顧客中心の「デジタルエボリューション」
近年では、至るところで「デジタルトランスフォーメーション」という言葉が使われるようになりました。私も実際に、あらゆる業界のリーダーたちが、さまざまなテクノロジーの進化を「デジタルトランスフォーメーション」と言い表しているのを耳にしてきました。
それもあって、「デジタルトランスフォーメーション」がパワフルに感じられるのかもしれません。
その「デジタルトランスフォーメーション」をわかりやすく定義すると、業務をはじめとする、製品やサービスなどに、企業がデジタル技術を導入するプロセスと言えるかもしれません。現代では、デジタル技術が生活の見えるところではもちろん、そうでないところに浸透している人の方が、そうでない人を上回っているのが現状です。そのため、ソニー・ インタラクティブエンタテインメント(SIE)のような企業が新しいデジタル技術を採用すると、必然的に何百万人もの人々が影響を受けることになります。
SIEにてSVP、デジタル、テクノロジー、エンジニアリング、IT&オペレーションズ統括責任者を務める私は、近代のデジタル時代の進化を間近で見てきました。
本記事では、以下のテーマについて詳しく見ていきたいと思います。
- 現在の情勢におけるデジタル技術による破壊の例
- 消費者をよりよく理解するためにリーダーが取り入れるべき簡単なステップ
- ビジネスに利益をもたらすためのデジタルテクノロジー導入後の具体的な戦略
デジタルによる破壊の現実
現代社会にてテクノロジーが急速に進化すると、それに伴ってデジタルによる破壊も急速に進みます。そのため、消費者の利便性とアクセス性を考慮した新機能も数多く導入されてきました。金融インクルージョン(経済活動に必要な金融サービスをすべての人々が利用できるようにする取り組み)、コグニティブコマース(顧客のニーズを学習するデジタルチャンネルを活用したシステム)、予測医療などの展開は、現代社会のおけるデジタル技術の進化の一例です。このようにテクノロジーの進化が加速するにつれ、消費者は利便性を向上させる新機能を、身近で信頼おけるメーカーに期待するようになります。
私たちの生活の一部を覗くだけでも、どれだけ日々の需要がデジタルによる破壊によって変化したか歴然的に伝わってきます。銀行を例えに挙げると、これまで窓口に並ばなくてはいけなかった用事が、今ではモバイルアプリから管理できるようになったため、ほとんどの消費者は、銀行に出向かなくなりました。スマートフォン用のデジタル搭乗券を導入する空港や、携帯電話がルームキー代わりになるホテルも同様です。
消費者にとって、自らのペースで物事を管理できるというのはメリットですが、制限や問題点は依然として存在します。指先で管理できるシステムや機能を使うようになった消費者に対して、企業はどのようにユーザーエクスペリエンスを進化させればいいのでしょうか。答えは、微調整です。消費者のユーザーエクスペリエンスを阻害し、別のシステムへの切り替えを余儀なくしてしまうような大規模な革新ではなく、時間をかけて消費者に慣れてもらえるような、継続的な小さな調整が重要となります。
この継続的な調整に必要となるのが、デジタルエボリューション(デジタル技術を活用してビジネスを効率化させるプロセス)です。デジタルエボリューションは継続的な調整を可能にするだけではなく、新しいアイデアを生み出してくれます。製品やサービスに対する消費者の期待や経験の移行に合わせて、企業がより効率的なビジネスモデルと収益源を実現できるように、テクノロジーを活用し、社員を支援しながら、デジタルエボリューションを適応していくことが大きな鍵を握ります。
消費者主義のデジタルエボリューション
では、継続的なデジタルエボリューションの実現のためには、どうすればいいのでしょうか。それは、チーフインフォーメーションオフィサー(CIO)またはチーフデータオフィサー(CDO) による、以下に挙げる3つの戦略的な柱を取り入れた消費者のニーズの対応から始まります。
1つ目の柱は、消費者と消費者の価値観のフレームワークの包括的な把握、2つ目の柱は、競争優位性を拡大しながら取り組む、より安全で信頼性の高いツール、人材、システムのためのサステナブル投資の推進、そして3つ目は、継続的な改善と技術投資を実践する上での俊敏性の確保、そして消費者の直接的サポートです。
これら3つの柱を取り入れることで、耐久性に優れたフレキシブルなシステムが確立します。そこから、価値の創造や学びを発見できるようなプロセスや、ワークフローへ改良できるかは、私たち次第です。テクノロジーの選択、製品やサービスの愛用者の確保、知識の伝達の優先、企業内の壁や障壁の取り払いなど、さまざまな課題に対する解決法を継続的に改善していくとともに、テクノロジーを浸透させることで、グローバルなつながりが形成し、ビジネスが効率化されます。
デジタルエボリューションの基盤づくり
CIOまたはCDOにより消費者主義が確立したビジネスは、次いで4つのテーマに沿って、明確なビジネス戦略に向けたステップに進みます。
- 消費者やパートナー企業とのつながりの強化
- 社員の体験・ユーザー体験の充実化
- 業務のデジタル化
- 最も堅牢なデータソースの調査
一つ目の「消費者やパートナー企業とのつながり」は言葉どおり、非常に率直なテーマです。消費者がどのような状況で、何を必要としているかを根本的に理解したうえで、的確な情報を的確なタイミングで提供することで、すべての消費者およびプレイヤーを対象とした、状況に応じたデータ駆動型の関連性の高い、スマートなやり取りが実現します。
学習能力を備えたシステム、付加価値を与えるシステム、または知識の伝達を優先するシステムなど、利用者に合わせたセルフサービスの機能を提供することによって、社員体験やユーザー体験がより充実するだけだはなく、どの機能を使えばいいか悩まなくてよくなるため、社員の快適な経験につながります。
サプライ チェーン、ERP システム、予算、業務計画に至るまで、レジリエンスを常時「ON」にしておくことで、的確な情報を関連チームに提供する高度なデータ駆動型システムが完成します。これら3つのテーマはすべてデータから情報を収集するため、正しいデータソース、モデル、ガバナンスが確保されているか確認する必要があります。
すべてを掛け合わせ築くデジタルエボリューション
消費者、企業に限らず、さまざまな情報にアクセスできる世の中になりました。機敏性のある事業の場合、これらの情報を活用して、変化し続ける消費者の要望や 期待に対応できる戦略作りに重点を置くべきです。それと並行して、速やかな解決へ導く企業戦略を掲げることも重要です。これからも進化し続ける社会とテクノロジーの相互関係に対応していくためには、デジタルエボリューションの基盤は強固でありながらも、柔軟で流動的でなくてはいけません。