ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)で20年にわたり活躍してきたグローバルパートナーデベロップメント&リレーションズ担当SVPのフィル・ローゼンバーグが、2025年末をもって退任することを発表しました。フィルは、PlayStationブランドのこれまでの成長において欠かせない存在であり、チームと共に長年にわたって、数々のPlayStationの商品を通じて世界中のプレイヤーに魅力的な体験を届けるべく、尽力してきました。

今回は、SIEおよびPlayStationブランドでのキャリアを振り返りながら、喜びの瞬間や困難、そして挑戦について、フィルに話を聞きました。

SIE.Blog:本日はお時間をいただき、ありがとうございます。 前職のThe Performance Marketing Groupを通じてPlayStationに関わり始めたと伺っています。当時の思い出や、ソニー・コンピュータエンタテインメントについて学んだことを教えてください。

当時は本当にワクワクする時代でした。1994年初頭、シカゴで行なわれたPlayStationのパーティーに参加したのを覚えています。そこには前職の同僚が何人かいて、SCEA(Sony Computer Entertainment America)の新たな経営陣に加わる予定だと知りました。そのため、PlayStationについてはかなり初期の段階で耳にし、その可能性と、久夛良木健さん(初代PlayStationの生みの親 。PlayStationの父)のビジョンに触れることができました。

PlayStationがここまで大きくなると想定していなかった方もいたと思いますが、久夛良木さんは、彼のビジョンが今後どのように進化していくか、その時点でほぼ完璧に予想していました。そのビジョンが、この30年間の私たちの大きな成功に繋がったのです。

当時私は、Performance Marketingの外部契約者でした。現場でのセールスを請け負うフリーエージェントといった立場でしたが、PlayStationが外部代理店との契約を終了したタイミングで、2006年4月にビジネスデベロップメント担当VPとして正式にSCEAに入社しました。それ以来、PSP「プレイステーション・ポータブル」、PlayStation 2、PlayStation 3、PlayStation Vitaなど、すべてのハードウェアのローンチに携わってきました。

SIE.blog:PlayStationブランドの発展に対する期待に先ほど触れられていましたが、PlayStationが長年にわたってプレイヤーやエンタテインメントのファンの心を掴んできた理由はどこにあるとお考えですか?

私たちはこれまでに多くの学びを得てきました。そして、最初の10年は皆さんが想像される以上に未熟だったのです。

PS2が大成功を収めたあと、PS3では大きなチャレンジを強いられました。これは、会社全体にとっての転換期だったと思います。とても大変な時期でしたが、PS3を通じて次世代のゲーム体験の基盤を築くことができました。まずは「つながる世界」がなぜ重要なのか、そしてどう拡大していけるのかを理解しなければなりませんでした。次に、開発者やクリエイターの皆さまに寄り添い、サポートすることの大切さを再認識する必要がありました。そしてもちろん、プレイヤーの皆さまのことを忘れてはなりません。こうした理念は、その後もPlayStationを導き続けていると思います。今やPlayStationは、世界中で信頼され、愛されているブランドです。

PlayStation 4は、クリエイターの皆さまとの関係を本当の意味で取り戻す機会となり、ユーザーの皆さまも、PlayStationに戻ってきてくれました。ファンの方々は私たちとPS2を愛してくれていましたし、PS3では一部のプレイヤーを失ってしまったかもしれませんが、PS4で再び戻ってきてくれました。私たちの企業としての成長は、PlayStationコミュニティとの絆に常に支えられてきたと思います。

SIE.blog:パートナーリレーションズおよびデベロップメントをリードする立場を離れるにあたり、最も名残惜しいと感じることは何でしょうか?

PlayStationを支えるSIE、パートナー、そしてコミュニティーに価値をもたらすことができる立場を離れるのは、寂しく感じます。今では、世界中のクリエイターやパブリッシャー、同僚たちと築いてきた関係や友情がありますし、皆さんの活気あふれるエネルギーも恋しくなると思います。

しかし、SIEでは20年という長い年月を過ごしました。人生の次のチャプターに向けて旅立つのには良いタイミングでしょう。まだまだ新入社員のように見えるかもしれませんが、退任後は、できる限り多くのビーチとゴルフコースを巡ることを楽しみにしています。

SIE.blog:社内外を問わず、ご自身のキャリアに影響を与えた人物はいらっしゃいますか?

現在の役割や、グローバルパートナー&デベロッパーリレーションズ(GPDR)チームの発展に対する私の情熱を引き出してくれたのは、アンドリュー (アンディ)・ ハウスさんです。アンディさんは当時のSIEのCEOで、サードパーティリレーションズも率いていましたが、最終的にその役割を私に引き継いでくれました。アンディさんの退任後は小寺剛さんがCEOに就任され、彼からは、チームを成功に導くために必要な優しさや冷静さを教わりました。個性の強い私に対して、ときには控えめである方が効果的だということを、小寺さんは教えてくれたのです。PS4で事業規模を拡大していくなかで、彼の安定したリーダーシップは今でも心に残っています。

また、私がSIEでリーダーを務めてきたほとんどの期間、西野秀明さんは良き友人でもありました。西野さんがSIEのトップとしての役割を担うことを大変嬉しく思いますし、彼は素晴らしいCEOになると確信しています。彼は私たちの商品、会社としての発展、そしてイノベーションに対して、深い情熱を持っています。西野さん率いるSIEは、特別なものになると思います。

SIE.blog:GPDRチームでは、どのようにして優れた新規フランチャイズやタイトルを発掘しているのでしょうか? どこからともなく現れたかのような素晴らしい作品が多くありますが、成功するIPを生み出す「秘訣」とは何でしょうか?

GPDRには、Christian Svenssonさん率いるコンテンツベンチャーズチームがあります。ChristianさんやShawne Bensonさんほど、隠れた逸材を発掘し、新進気鋭のクリエイターや企業を育むことに長けた人物はいないと思います。彼らは、SIEとクリエイターの皆さまとの最初の窓口となることも多い、サードパーティのアカウントマネジメントチームやパートナーデベロップメントチームからも多くのサポートを受けています。

彼らのチームは、『Stray』などのタイトルにおいて、Annapurna Gamesと非常に早い段階から関わっていましたし、同じアプローチが『原神』『黒神話:悟空』『Stellar Blade』といった作品のサポートにも繋がりました。

GPDRのアカウントチームは情熱的かつ先進的で、現在はグローバル市場の拡大に多くの時間を注いでいます。GPDRのすべてのチームが、さまざまなプロジェクトおよびユーザーの皆さまをサポートしています。世界には素晴らしいクリエイティビティが溢れていて、戦略からeスポーツ、開発者支援に至るまで、私たちはコンテンツとエンゲージメントという軸を中心に繋がっています。最近では、中東・北アフリカ地域向けの「Middle East North Africa Hero Project」(英語のみ)を立ち上げました。この施策は、「China Hero」や「India Hero」といった既存のプロジェクトの流れを受け継ぐものです。各地域のクリエイターのゲームを世に送り出すのをサポートし、地域の皆さんがPlayStationコミュニティの発展に参加することで、情熱も育まれていくと、私たちは考えているのです。

ただ正直に言うと、私がこの仕事を始めた頃は、IPの価値が理解できていませんでした。私にとっての仕事は、むしろ「取引を成立させること」や、「ビジネス関係の構築や駆け引き」といったアプローチが中心で、重要なIPを軸にした戦略的パートナーシップや、プラットフォームの健全性の大切さを深く理解していなかったのです。

PS4に携わったことで、ようやくすべてが繋がった気がしました。

多様なプレイヤー層に向けて複数のIPを展開し、それらを管理するためのポートフォリオの組み方を学ぶことは非常に重要です。GPDRのビジネス上での役割はIPを中心に据え、クリエイターが自らの作品をプレイヤーに届けるための障壁を、あらゆる手段で取り除くことだと考えています。そして、SIEとPlayStationには、これらの取り組みをサポートしてもらいたいと思っています。

SIE.blog:SIEの内側を見てきた立場から、PlayStationの未来についてどのようにお考えでしょうか?

私はPlayStationの未来に対して、とても前向きです。SIEには、非常に優秀で、聡明で、情熱的な人材がそろっています。彼らは、それぞれが高度な専門知識を要する分野のスペシャリストです。テクノロジーはこれからも進化し続け、より安定化および高速化し、ゲームはエンタテインメントの世界において今以上に大きな存在になっていくと考えています。

私たちが築き上げてきたものは、バレエに似ています。すべてが計算され、振り付けられているのです。自然で簡単に見えたとしても、実際には多くの努力が注がれており、私たちはそれらの責務を見事にこなしてきました。

今、私たちは素晴らしい追い風に後押しされています。今年度もとても良い形で締めくくることができるでしょうし、来年もまた実り多き一年になると確信しています。

プロセスを改善する余地は常にありますが、SIEの未来はとても明るいと思います。PlayStationの物語は30年で完結するものではなく、60年、そしてさらにその先まで続いていくものです。

SIE.blog:これまでPlayStationブランドを導いてくださったことに、心から感謝いたします。改めて、ありがとうございました。

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