Trang Hoは現在、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のプラットフォームエンジニアリンググループ(PEG)でプロダクトマネジメント、プロダクト&データストラテジー担当VPを務めています。しかし、ほんの10カ月前まで、彼女はまったく別の分野において役割を担っていました。 

「私はSIEのゲーミングエクスペリエンス・ソフトウェアエンジニアリング担当VPとして、2022年にプロダクトマネジメントおよびデータストラテジーに転向するまでの20年間、ソフトウェア開発、プログラミング、そしてエンジニアリングに携わってきました。モノづくりにフォーカスしたエンジニアリングから大きく変わり、“なぜこれらの製品を作っているのか”と考える役割にシフトしたのです」とTrangは説明します。 

SIEの在職期間が合計17年を迎えた頃、ソフトウェアエンジニアリングにおける豊富な経験と専門知識が、長年勤めてきた社内のほかの部門にも応用できると気づいたことで、Trangにとって新たな道が開けました。 

このようなキャリアチェンジを果たせたことは、決して当たり前のことではなく、SIEの協力的な職場環境のおかげだとTrangは言います。 

「私は一時SIEを離れてほかの企業に勤めた経験もありますが、SIEにはほかの会社にはない特別な魅力があります。ほかの多くの企業でも高度な技術やクリエイティブな仕事に携わることはできます。しかし、創造性を称え、その創造性をさらに高めるためにテクノロジーを駆使し、推進するSIEのような企業で働くことは、とても特別な経験です」 

キャリアをプログラミング 

ゲーム業界の多くの匠と似たキャリアパスかもしれませんが、Trangも働き始めた当初は、自分がどこに辿り着くのか確信を持てませんでした。当時プログラマーとして勤めていたベンチャー企業が倒産してしまったことをきっかけに、Trangは次の道をどう進むべきか立ち向かうことになりました。「最初は大学院に戻ろうと考えました。2、3年プログラマーを続けたら医学部に進もうか、と。けれど、結果的に、それが着地点ではありませんでした」 

駆け出しの頃に培ったプログラミングとコーディングのスキルを活かし、Trangは2003年、SIEに入社します。もともと熱烈なゲームファンであったTrangは、すぐさまゲーム業界のクリエイティブな側面を理解し、さまざまなマルチプレイタイトルに携わり、ゲーム開発に関する技術や知識に魅了されました。 

「私はオンラインマルチプレイ、つまりコンソール向けのオンラインゲームの分野でSIEでのキャリアをスタートさせました。これらのゲームは絶えず変化していて、私たちは常に新しい要素をゲームに加え続けていました。この絶え間ない変化と、プレイヤーのためになにか新しいことを実現したい、という気持ちに突き動かされることが日々本当に刺激的で、気づいたらあっという間に10年が経っていました」 

コラボレーションの秘訣 

ゲーム開発における長年の経験とともに、Trangは、現在担当しているプロダクトおよびデータストラテジー部門のリーダーやチームの指揮に積極的に取り組んでいます。「エンジニアリングでは、物事がどのように行なわれ、どのように作られるかという具体的な問題の解決を目指しています。しかし、プロダクトエンジニアリングでは、“なぜそのような方法で作る必要があるのか”という俯瞰的な質問に対する回答を模索しています」 

Trangはリーダーとして、こうした大きなコンセプトや全体像をチームメンバーに伝達する必要があります。さまざまなスキルを持つクリエイティブなプロフェッショナルたちの目標や望みを取りまとめることは、決して容易ではありません。重要なのは、「委任」と「協力」の違いを理解することだと彼女は言います。 

「“委任”とは、解決法をすでに分かったうえで、その仕事を誰かに任せることを指します。しかし、クリエイティビティとコラボレーションを重視する職場環境においては、それは最適な方法ではありません。非常に聡明で情熱的な人たちと一緒に仕事をする際、彼らに“なにをどうするべき”と指示することは、彼ら自身の創造性や自主性、主体性を削いでしまうのです」 

その代わり、「人々が一丸となり、ひとつのグループとして心地よく一緒に働ける環境を整えること」が彼女の役割だとTrangは言います。これを実現するためには、思慮深さや細かい配慮が必要であるものの、ほとんどの場合はより良い結果につながります。 

Trangはこのプロセスをゲームデザインそのものに例えます。「ゲームの環境デザインに携わっているアーティストたちを、心から尊敬しています。ゲームを立ち上げ、その世界にはじめて足を踏み入れたときのワクワク感と、この先には楽しい体験が待ち受けていることがたまりません。頭を悩ませる挑戦やパズルがある一方で、その世界はプレイヤーが活躍し、達成感を味わえる作りになっているからです」 

「リーダーシップもそれに似ていると思います。優れたリーダーは、人々が一丸となり、共に高い目標を達成できるような職場環境を築くことができるのです」 

情熱の原動力 

Trangのように長くゲーム業界に携わる人物にとって、モチベーションを保ち続けることは時に難しくもあります。一体なにが、彼女の背中を押しているのでしょうか。 

「問題を解決するのが好きなのです」と、Trangは言います。しかし、彼女の熱意の源は、問題に対する最良の解決策を見つけることで得られる満足感だけではありません。「私がこの仕事を長く続けている理由は、SIEの製品に携わることで生まれる思い出です」 

「私が手掛けたゲームをプレイしたことがある人に出会う機会があると、彼らは“子供の頃、大好きだったゲームのひとつだ”とか“自分にとって決定的な瞬間だった”などと教えてくれます」プレイヤーの大切な思い出づくりの一端を担っているのだと実感することが、次のプロジェクトに対するTrangの原動力です。「私たちは、プレイヤーが心から楽しめる体験を妨げるような障がいを取り払うことを目指しています。“ああ、気遣って作った体験だな”と笑顔を浮かべながらゲームをプレイして欲しいのです」 

このようなプレイヤー体験は、目の前にある、より大きな懸念事項などに比べて見過ごされがちであるものの、同じくらい重要なのだとTrangは言います。 

「それがSIEのユニークなところです。ここでは、私たちの努力や取り組みはすべてプレイヤーのためにあるのだということを誰もが理解し、その価値観を掲げています。プレイヤーの体験を第一に考えて物事を判断し、決断するのです」 

ゲーム制作の技法 

ゲーム業界は、TrangがSIEに入社した頃に比べ大きく変化しているものの、2023年にゲーム業界でキャリアをスタートさせようとしている人材に対し、「ゲームをプレイすることに関心があることは良い出発点であるものの、それだけでは足りない」とTrangはアドバイスします。 

「ゲーム業界でのキャリアに本当に重要なのは、ゲームづくり、あるいはプレイヤーのための体験づくりに対するパッションだと思います。最終的な結果だけでなく、ゲーム制作の過程や技法に対する思い入れが必要なのです。なぜなら、テクノロジーの進化にあわせてゲームづくりの技法も変化するからです。プレイするゲームの種類が時代とともに変化するように、ゲーム制作に対する自身の情熱や想いも成長し、進化し続けなければなりません」 

完成品だけでなく、ゲーム制作そのものに真摯に打ち込むことが、変化し続けるゲーム業界で長く活躍し続ける秘訣だと、Trangは言います。 

「マーケティング、テクノロジー、ゲームデザイン。どの分野に携わっていようと、それらに関わる技術や過程を愛さなければなりません。それらに対する思い入れや愛情を育むことが、継続の糧となるのです」 

安らぎとコアバリュー 

最近では、時折ゲームを楽しむこともありつつ、最新の大型タイトルをプレイするよりもペットと一緒に本を読むほうが好きなのだと、Trangは笑いながら言います。「小説を読みながら、愛犬を膝に乗せてコーヒーを飲むことが私の楽しみです。幸福を与えてくれるものに囲まれるのが好きなんですね」 

私生活でもそうであるように、自身を幸福で囲むことはTrangの仕事上の哲学であり、SIEのユニークな職場環境を表しています。 

「SIEでは、クリエイティビティを称え、そのクリエイティビティをさらに高めるためにテクノロジーを駆使し、最終的にはプレイヤーのためにすべてを結集します。自分と同じバリューを共有する人たちと共に働いているからこそ、いつまでもここにいるのだと思います」 

原文はこちら