近年、目覚ましい発展を遂げている中国のゲーム市場。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、2021年5月にプレイステーション®5(PS5™)を中国市場にてローンチ、現地のゲームユーザーにプレイステーション®の魅力を訴求し、普及する活動を加速させています。

その大きな試みのひとつとして、今年の7月、中国有数のオフラインイベント「Bilibili World」に、8月には中国最大規模のゲームイベントである「ChinaJoy」にブースを出展。大変な盛り上がりを見せた両イベントの様子と合わせて、中国市場におけるSIEの取り組みと今後の展望をSIE上海マーケティング担当ディレクターの石川啓次郎と、SIE上海プレジデントの江口達雄がご紹介します。

*現在、新型コロナウイルスの感染拡大が抑えられている中国では、政府のガイドライン等に沿って感染防止対策を徹底した上での大規模なオフラインイベントの開催が可能です。今回の「Bilibili World」および「China Joy」については主催者による防疫管理体制の徹底を確認した上で出展しています。


中国コンソールゲーム市場の現状

SIE上海マーケティング担当ディレクターの石川啓次郎

石川 1990年代に高度経済成長を迎えた中国では、2000年以降にネット環境の整備やスマートフォンの普及が進み、PCゲームやモバイルゲームなど新たなゲームジャンルが台頭したことで、世界最大とも言われる5兆円規模のゲーム市場へと成長していきました。一方、2000年から2014年にわたって据え置きのコンシューマーゲームの生産・販売が規制されていた影響から、コンソール市場はまだ日本や欧米諸国のように発展していません。反面、コンソールが不在だった時代の空白を埋めようとする熱心なユーザーの方がいらっしゃるのが中国コンソール市場の現状です。

~ゲームの世界観をリアル空間にインストール~
「Bilibili World」とプレイステーション

石川 「Bilibili World」は、中国のZ世代から絶大な支持を集める動画プラットフォーム「bilibili.com」が主催するオフラインイベントです。動画の投稿者とファンの交流を目的として、2017年から毎年開催されています。

今回の「Bilibili World」ではプレイステーションのブランド認知度を上げることよりも、プレイステーションの持つIP・コンテンツを記憶に残る“顔”として覚えてもらうことを目標とし、フォーカスした3つのタイトルでは、ゲームの世界観をリアル空間にインストールするブースのデザインを目指しました。

『Astro’s Playroom』のブースでは、PS5のローンチイベントでも使用したプロジェクショントンネルを設置し、またゲームの世界感に忠実なデザインを施した『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』とスクウェア・エニックス社の『FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE』ブースを用意しました。SNSで「ブースから次世代を感じた」という声をいただくなど、中国のユーザーにとっても新鮮な体験になったことが窺えます。

~360度のシーリングLEDを用いた美麗な演出~
「ChinaJoy」とプレイステーション

石川 「China Digital Entertainment Expo and Conference(通称ChinaJoy)」は、中国最大規模のゲームイベントです。2004年から開催されている歴史あるイベントなので、コアなゲーマー層も数多く集まります。

「ChinaJoy」におけるプレイステーションのブランド認知度は比較的高いため、よりディープなブランドトーンとPS5本体の訴求を目標として、会場では「ブースの外にいる方もゲームプレイを楽しめること」を可能にする360度のシーリングLEDを使い、そこに各試遊台でのゲームプレイをリアルタイムで放映し、220インチのCrystal LEDも大胆に使用しました。 その圧倒的な映像の美しさは、ブース前を通り過ぎる人たちも思わず立ち止まってしまうほどで、絶好のフォトスポットとなりました。

若い世代にリーチするKOLのマーケティング戦略

石川 両イベントの来場者は10〜20代がメインです。そこでこうした世代にプレイステーションの魅力をお届けするため、訴求力の高い「KOL(キーオピニオンリーダー)」*を慎重に選んで、キャスティングしました。

中国では動画プラットフォームが複数存在しており、そのプラットフォームごとにKOLが異なります。各プラットフォームによるKOLの囲い込みは激化の一途を辿っていますが、「ChinaJoy」におけるプレイステーションは、Z世代への浸透を狙い、今までのコアゲーマーKOLだけではなく、カジュアルゲーマーKOLを数多く起用しました。 今後、SIEはKOLを起用したマーケティングの定期的なルーチンを確立し、プレイステーションの販売戦略の一環として積極的に展開していく方針です。

* KOLとは、専門的な知識を持つインフルエンサーのこと。中国では一般的に、消費者が商品やサービスの購入を決定する際に大きな影響力を持つ人たちのことを指します。ゲームの専門家として高い信頼を集めるゲーマーや、ゲーム動画実況者もKOLに分類されます。

中国におけるプレイステーションのビジネスの歴史と攻略の鍵

SIE上海プレジデント 江口達雄

江口 中国ゲーム市場の規制緩和が進んだ2014年に、SIEは合弁会社を設立し、2015年3月にプレイステーション4(PS4®)をローンチしました。2021年にはCOVID-19の逆風が吹き荒れるなか、グローバルローンチから約半年後と、PS4より格段に早いタイミングでPS5をローンチできました。これは、中国で積み重ねてきた数々の経験や各所と築いてきた信頼関係が活かされた結果で、オフィシャルモデルを待望していた中国ユーザーの方々から大変な熱気で迎えられました。

↑PS5ローンチ当日の様子。完全招待制イベントを実施し、プレイステーションを彷彿させる青色で街を彩りました。

江口 その後は各地でローンチイベントを開催し、プレイステーションの公式ショップ約12店舗でPS5をイメージした店舗改装を実施することになりますが、実店舗に足を運ぶことなく商品を購入できる巨大なEC市場が販路・流通のスタンダードになっている中国ではECショップに注力する方がより合理的な選択に思えるかもしれません。

しかしながら、プレイステーションは実店舗での草の根的な普及にも力を入れています。なぜならユーザーの皆さんが夢中になって遊べる「Immersive(没入)」体験を作り出すことが、プレイステーションのコアバリューだからです。それは実店舗が“体験の場”になるからこそ伝えられる価値だと言えます。そしてその体験がSNSを通じて口コミで広がっていき、EC市場に波及していく。EC×実店舗の相乗効果が、今後の中国ゲーム市場攻略の鍵を握ると考えています。

↑PS5をイメージして改装した店舗。

「00後」に訴求するエンタテインメント体験を

江口 中国の人口は、最新の統計で14億人を数えます。そのうちの約半分にあたる6億を超える人たちが中国のゲーム市場を構成しています。途方もないボリュームですが、そのほとんどはモバイル・PCゲームに夢中です。

中国ではモバイル・PCゲームが主流で、コンソールの存在感が大きいとはまだ言えません。しかし、プレイステーションが提供する「Immersive(没入感をもたらす)」ゲーム体験は、中国のゲームユーザーの皆さんに新鮮な驚きと新しい価値を提供します。

中国で「90後」と呼ばれる80年代後半〜90年代前半に生まれた世代は、自分の好きなことを追求する価値観を強く持ち、プレイステーションのタイトルならではの重厚感のあるストーリーや美しいグラフィックの魅力に惹かれて、プレイステーションを熱烈に支持していただきました。これからSIEが訴求したいのは「00後」と言われる2000年後生まれの人たちです。より経済的に豊かになり、趣味や娯楽に敏感になった世代に対して、「なぜコンソールなのか?」の答えを提供していくことが、今後の課題と考えています。

「プレイステーションは未知の感動を与えるエンタテインメントである」――そうしたポジショニングを通じて、中国ゲーム市場での差別化を図るとともに、一人でも多くのユーザーの皆さんに喜んでいただくために、さらなる努力を重ねていきます。