ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)では、さまざまな取り組みを通じてイノベーションを追求してきました。「さまざまな考え方が、さまざまなアイデアを生み出す」と考えるSIEにとって、イノベーションの具現化には信頼のおけるパートナーとの連携が不可欠です。従来の考えの枠を超えたアプローチから生まれたAccess コントローラーは、幅広いカスタマイズが可能なため、障がいのあるユーザーの方でもより一層楽しめるゲームプラットフォームを実現しています。Access コントローラーは、当社の製品やサービスのアクセシビリティを高め、多様性豊かなPlayStationコミュニティの障壁を取り除くという、包括的な目標の一環として開発されました。

2021年には、画期的なアイデアを考案、探求し、社内やゲーム業界に向けて導入することを目的としてSIEのFuture Technology Group(FTG)が発足されました。本日は、先日発売されたAccess コントローラーを活用することで没入感のあるプレイをより多くのユーザーに体験していただくために取り組んできた、FTGと大学生による共同プロジェクトに加え、FTGがイノベーションの具現化に向けて行っている継続的な取り組みと、どのようにクリエイティビティとテクノロジーを活用しているかをご紹介します。

Swinburne University of Technologyとの出会い

私は、英国、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドにおけるSIEのアカデミックリサーチプログラムを担当する、アカデミック・デベロップメント・マネジャーです。アカデミックコミュニティとのつながりの促進と強化、そして互恵的なプロジェクトの共同開発に取り組みながら、アカデミックとビジネスのギャップを埋める役割を担っています。既成概念にとらわれず、理論を重んじるアプローチを強みとするアカデミックに対し、ビジネスでのアプローチはより実践的ですが、このふたつをうまく組み合わせることで相乗効果が期待できます。最近の事例では、Access コントローラーの有用性の多様化に向けて複数のグループが共同で取り組み、これまでにさまざまな新しいアイデアが生み出されました。

FTGが結成されたことで、課題解決に対する視野が広がりました。斬新なアイデアやインスピレーションを持ち合わせる外部サポート団体の発掘のために、SIE内部のイノベーションを把握しているFTGは、ブダペストで開催されたCompass Tech Summitに参加することにしました。サミットでは、オーストラリアのメルボルンにキャンパスを置くSwinburne University of Technology(Swinburne大学)と、Accessコントローラーの応用法について話し合う機会に恵まれました。先進的な技術を生み出すというSIEの理念に沿ったこのプロジェクトは、ブダペストで始動し、オーストラリアで完了するという、非常にグローバルな取り組みとなりました。

本プロジェクトについて話し合っていく過程で、Swinburne大学のエトス(社会集団における道徳的な慣習)が我々の理念と共通していること、そして3Dプリンターやプロトタイピンググルーム(試作モデルを作成し、検証や改善を重ねた後に開発を行うスペース)といった設備が整った研究室について知ることができました。イノベーションハブのグローバルネットワークである「The Design Factory」を長年開催してきたSwinburne大学の実績も、パートナーシップを後押しする要素でした。Swinburne大学は過去にも同様のプロジェクト経験があり、学生たちに実際のビジネスで役立つ課題を提示し、その課題に対する研究や調査結果を活用するノウハウを誇っていることから、今回の出会いはFTGにとって必然的なものでした。

斬新なアイデアと多様性豊かな思考

プロジェクトが開始されると、研究者にはプロジェクトの目的や背景が提示され、多種多様な支援とアクセスに加え、分解して「ハッキング」してもらうためのAccess コントローラーも準備されました。また、SIEのデザイン、サステナビリティ、アクセシビリティの担当チームによるプレゼンテーションも行われました。複数のチームからのフィードバックを取り入れ、さまざまなアクセシビリティ関連の制約に対応できるように設計されたAccessコントローラーですが、今回のSwinburne大学との共同プロジェクトの主な目的は、コントローラーの新しい用途や可能性を探ることでした。

寄せられたアイデアの中に、Access コントローラーをフィジェットトイ(緊張を和らげたり集中を高めたりする目的で使われる、指先を使った玩具)として使うという発想がありました。特に統合運動障がいや、多動性障がいのある人にとって有効的な応用用途ではないかという考えに基づいた発想です。また、音楽シーンが盛んなメルボルンらしい、音楽に焦点を当てたアイデアも多く見られました。これがきっかけとなり、Accessコントローラーを楽器として使う応用用途について実験が行われ、その中でもAccessコントローラーを使ってDJが演奏できるかどうかの検証は注目を集めました。エンタテインメントの領域でも幅広く事業を展開しているソニーグループならではの、ソニーミュージックとのコラボレーションアイデアが今回のプロジェクトで生まれました。これからもソニーグループの多様な事業領域で、このような画期的なアイデアが創出されることに期待が高まります。

今回ご紹介したのは応用例のごく一部ですが、今後のイノベーション創出につながる大切なアイデアの種です。そして、新たにDesign Labとパートナーシップを結んだことで、ブラジルやスイス在住の学生によるプロジェクトの参加とFTGによるサポートが可能になりました。通常、国によって学習スタイルやジェスチャー、そして非言語コミュニケーションといった慣習が異なるため、Access コントローラーの使用方法や用途も変わってきます。今後FTGの活動をグローバル規模で展開する可能性や、同様のプロジェクトの拡大と普及に向けてSIEが取り組むべき課題についても検討していきたいと思います。

Swinburne大学との Access コントローラーを使った取り組みをはじめとするプロジェクトの数々は、長期的な展開を念頭に遂行されます。実際に共同研究数年目を迎えるプロジェクトもあり、一部は博士候補生や卒業生とのプロジェクトです。また、教授やテニュア(終身在職権)が与えられた教員をプロジェクトにお招きし、7年または10年間にわたる長期データの蓄積も検討しています。FTGは、例えばSwinburne大学などで実施されるプレゼンテーションを短いセッションに分けて行うか、それとも長いセッションで行うか、また学生とのアイコンタクトや会話のペースなどの非言語的なコミュニケーションに改善が必要かなど、プロジェクトの取り組み方について継続的に改善できる点がないか模索しています。私はアカデミックとビジネスの円滑な連携を推進してきましたが、この異なる2つの分野のギャップを埋めることで素晴らしい成果の数々を経験することができました。イノベーションを追求する上で、単に結果だけでなく、結果を成し遂げるための過程でも、限界へ挑戦していくことが肝心です。

アイデアと思考の組み立て

Swinburne大学の訪問は、とても貴重な経験となりました。大学では、さまざまな生い立ちやバックグラウンドのオーストラリア人学生や、留学生と交流する機会に恵まれました。学生たちは、幅広い角度からプロジェクトのアイデアを探り、その多くは祖父母やまだ幼い親戚など今までAccess コントローラーに触れたことのない家族に、リアルタイムでコントローラーを操作してもらい、実際に使った感想、そして新しい応用のアイデアを聞き出すというアプローチを取りました。Swinburne大学の訪問は、とても啓発的で、さらなるイノベーション創作に向けてのSIEの取り組み、FTGの共同研究の進め方、そして、通常は見過ごされてしまうような視点から、さまざまな可能性を一緒に開拓していく方法について考えるきっかけとなりました。

SIEは、開拓精神に満ちた社員が一丸となり、事業におけるあらゆる分野にイノベーションを推進してきました。今回のSwinburne大学との共同プロジェクトは、新しい道を切り拓いていく若者たちがPlayStationの画期的な製品、プラットフォーム、アプリケーションをどのように活用し、新しいアイデアを創造していくかを理解する上で、重要な手掛かりとなりました。FTGの取り組みがどのように発展していくのか、そして次世代を担う若いプロフェッショナルたちが私たちをどこへ導いてくれるのか、今後がとても楽しみです。

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