Gameheads: 社会から孤立した若者たちとゲーム業界をつなぐ架け橋
ある仮説からのはじまり
Gameheads(英語のみ)の立ち上げのきっかけとなったのは、ある仮説でした。それはゲームデザイン、開発、DevOps(開発・運用の仕組み)、そしてミクストメディア(あらゆる素材を使用して制作されたアート作品)を教えることで、孤立したコミュニティーの若者が社会に参加するチャンスに繋がったり、関心を持ってもらうことができるのではないかという仮説です。そして、これらの専門を学ぶことで、彼らはさまざまな業界に携わることができるとも考えていました。この仮説は、2014年に、Gameheadsが設立された米国のサンフランシスコ・ベイエリアにおけるテックブームの中で生まれました。コーディング技術の習得はテック業界にはじめて足を踏み入れる求職者に奨励されていましたが、私はそれが万人向けではないと感じていました。
過去のゲームジャーナリストの経験があったからこそ、私はゲームデザインに可能性を感じていました。ゲーム制作を細かく分析していくと、アート、アニメーション、プロジェクトマネジメント、コーディング、サウンドデザイン、モーションキャプチャ、レベルデザイン、QA(品質管理)など、さまざまなパートがあります。これらの要素はエンタテインメント業界そのものを形成していて、業界の成長にはハリウッドと同様に多様な人材の活躍が不可欠です。そしてこれが、イーストベイ(サンフランシスコ・ベイエリア)出身の若者たちや、女性、LGBTQ+またはノンバイナリーの人材への機会になると考えました。
この10年間で、Gameheadsは、孤立したコミュニティーからの人材とゲーム業界をつなぐ重要な架け橋となるまでに成長しました。私一人では成し得なかったことであり、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のサポートのおかげで達成できた成果の一部を、本記事を通じて共有できることに感謝しています。SIEのようなパートナーの支援がなければ、Gameheadsが仮説を実現することはできなかったでしょう。
小さなチーム、大きな成果
Gameheadsの設立は、12名の学生がMedia Moleculeの「Little Big Planet」シリーズのクリエイトモードを使って制作した、「悲嘆」がテーマの素晴らしいゲームとともにはじまりました。このゲームをコンペに出品するよう彼らに勧めた結果、この作品はホワイトハウスで開催された「エンターテインメントソフトウェア協会 LOFTイノベーションフェローシップ(英語のみ)」を受賞しました。彼らは自分たちのゲームを米議会ヒスパニック系議員連盟に発表する機会を得ただけでなく、1,000USドルのシードキャピタル、さらには当時のゲーム展示会E3への無料チケットも獲得しました。彼らの熱意を目の当たりにし、さりげなく「勉強を続けたいか」と尋ねたところ、とても熱心な反応が返ってきたのです。そこからGameheadsは急速に成長し、この記念すべき日からちょうど1年後に、私は本業を退職して今の会社に専念することを決心しました。
Gameheads 学生たちがSIE本社を見学
以来、SIEのようなパートナーの皆さんは、Gameheadsのカリキュラム内容の構成や、学生たちが実際の業務に携わる機会や実践的なリソースを提供するうえで重要な役割を担ってくれています。たとえば、ユニークなバックグラウンドや経歴を持つ求職者向けのSIEの育成プログラム「Apprentice Pathway Program」には通常2~3人のGameheadsの学生が参加しています。また学生たちがSIE本社を見学する機会もありました。
「フライ&フレッシュ」スーツパック
そして今日に至るまで、Gameheadsの学生にとってもっともエキサイティングなコラボレーションのひとつが、『Marvel’s Spider-Man 2』に関するプロジェクトです。タイトルの制作中、開発元のInsomniac Gamesが夏期の実習体験の一環として、Gameheadsの学生を招いて開発スタッフとともにゲーム制作に携わる機会を提供してくれました。
「Gameheadsは長年にわたるSIEのパートナーであり、Insomniac Gamesも彼らの学生3人を喜んで実習生として迎え入れました。全員がゲームとスタジオの両方にとても貢献してくれましたし、Gameheadsのミッションをサポートするすばらしい機会となりました」と、Insomniac Gamesのシニアクリエイティブディレクターを務めるBryan Intiharは言います。「さらに、このパートナーシップを通じ、Gameheadsの学生たちは『Marvel's Spider-Man 2』向けの特別なスーツパックを制作しました。それぞれのスーツは、私たちがゲームに求めるクリエイティビティをとてもよく表していると思います」
実習体験に加え、ディズニーおよびマーベルゲームズとのコラボレーションを通じて、Insomniac Gamesから社会的インパクトのある素晴らしい取り組みについてアプローチされました。それは、『Marvel’s Spider-Man 2』内で主人公のスパイダーマンたちが着用するスーツのデザインです。Gameheadsの使命のひとつは、社会から孤立した若者たちにゲームやテクノロジー業界で成功するためのツールやスキル、知識を提供することです。そのため、Insomniac Gamesのような多彩なチームと協力し合える機会はとても貴重ですし、注目作に関わるチャンスを学生たちに与えられたことは、私たちにとっても大きなステップアップとなりました。
このプロジェクトは、Gameheadsの学生がおよそ6か月にわたり取り組み、「フライ&フレッシュ」スーツパック1 としてリリースされた2種類のスパイダーマンスーツを制作しました。スーツのデザインは、学生たちに深く影響を与えているヒップホップの誕生50周年からインスピレーションを受けています。ゲームのクレジットにも名前が掲載され、本プロジェクトは学生たちにとって一生の思い出になったはずです。Gameheadsをリードしてきた私たちにとっても誇らしい瞬間でした。スーツパックが発売されたときはよりいっそう誇らしく感じましたし、発売以降も一部の学生がInsomniac Gamesで研修期間を延長できたことには、特に感激しました。
「InsomniacとGameheadsのパートナーシップを通じて、学生たちがゲーム開発の内側を直接体験できる機会を提供することができ、とても光栄でした。チームメンバーと交流しながらフィードバックをもらい、学生たちがどんどんステップアップしていくのを目の当たりにし、私たちにとっても素晴らしい経験となりました。学生たちは、プロ意識を持って業務をこなし、あらゆる課題をクリアしながら自分たちのエネルギーや関心をタイトル制作に活かしてくれました。また、GameheadsのDamonさんは、学生たちがタスクに集中して取り組み、成果をあげることをサポートし、GameheadsとInsomniacとのコラボレーションには欠かせない存在でした」と、Insomniac Gamesのアードディレクターを務めるJohnson Truongは付け加えました。
未来へ向けて成長を促進
Gameheadsの学生たちがゲーム開発に携わる機会に加え、私たちは、SIEの「Global Social Justice Fund」のパートナーの一員であることを感謝しています。2021年には、SIEとSocial Justice Fundからいただいた寄付金の一部を活用し、カリフォルニア州オークランド市の拠点にビデオゲームセンターを開設しました。当初は、多額の経費を伴う事業拡大に不安を感じていましたが、SIEの資金援助やDEIチームとのパートナーシップやサポートのおかげで、私たちは安心して投資し、成長できると確信が持てました。
施設は二棟の建物からなり、エンパワメント(意欲や能力を引き出し、自己実現や成長をサポートすること)と教育に特化したエリアがあります。VRヘッドセットやクロマキーなどを完備した最先端のバーチャルな制作スタジオに加え、アート・アニメーション・エンジニアリングラボにはペンタブレットやターンテーブルDJセット、高性能ノートパソコンなど、ゲーム制作に必要な機材が備わっていて、学生たちが経験豊富なデベロッパーから指導を受けられる場となっています。さらに、Gameheads Libraryには、3,000作品を超えるゲームや、デザイン、アート、コーディング、プロジェクトマネジメント、リーダーシップ、多文化主義などに関する書籍が揃っていて、学生たちはそれらを自由に利用できます。
Gameheadsのビデオゲームセンター
最後に
2024年8月24日、Gameheads創立10周年を記念してノースイースタン大学のミルズキャンパスでショーケースを開催しました。本イベントは私たちにとって、まさに節目の瞬間でした。イベントには400人もの人たちが集まり、Gameheadsフェローシッププログラムで最優秀コマーシャルタイトル(製品化を目指したゲームタイトル)を受賞した「PacoPomo」などをはじめとする、GameHeadsの100作品のゲームの完成をお祝いしました。また、学生たちはこの日のために、過去10年間にわたり私たちが生み出してきたゲームキャラクターたちを描いた大がかりなポスターまで制作してくれました。
Insomniac GamesやSIEのような大切なパートナーの皆さんとともに、これらの素晴らしい成果を目の当たりにし、Gameheads設立の際の思いは正しかったのだと実感しました。私たちが思い描き、目指してきたことはすべて実現し、これまで働きかけてきた人々やコミュニティーに対して重ねてきた努力が実を結んだのだと、肌で感じることができました。Gameheadsがこれまでの10年間、たくさんの成果を残すことができたのは皆さんのサポートのおかげです。これから先も、私たちは次世代の才能ある学生たちの育成に励んでまいります。
原文はこちら
- 2024年3月7日(木)から同年4月5日(金)まで、米国内で購入されたパック1個につき、4.99ドルがPlayStationからGameheadsへ寄付され、総額100万ドルに到達した時点で終了します。なお、寄付は資金スポンサーであるCommunity Initiativesを通じて行なわれます。 ↩︎